Jun 21, 2024 interview

前田哲 監督が語る 観た人が幸せを感じられることを意識して作り上げた『九十歳。何がめでたい』

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断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子は、新聞やテレビをぼうっと眺める鬱々とした日々を過ごしていた。同じ家の2階に暮らす娘や孫には、愛子の孤独な気持ちは伝わらない。同じ頃、大手出版社に勤める中年編集者・吉川真也は、昭和気質なコミュニケーションがパワハラ、セクハラだと問題となり、謹慎処分に。妻や娘にも愛想を尽かされ、仕事にプライベートに悶々とする日々を送る。そんなある日、吉川の所属する編集部では愛子の連載エッセイ企画が持ち上がり、吉川が愛子を口説き落として、晴れて担当編集になった。ふたりの出会いは、新たな人生を切り開くのか ?!

歯に衣着せぬ物言いで人気の直木賞作家・佐藤愛子。昨年100歳を迎えた彼女のベストセラー・エッセイ集『九十歳。何がめでたい』と『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』を原作に、90歳を迎えた草笛光子が、エネルギッシュかつチャーミングに等身大の佐藤愛子を熱演、彼女を支える頑固な中年編集者役の唐沢寿明と丁々発止のやり取りを繰り広げる。映画『老後の資金がありません!』(2021) で老若男女の共感を呼んだ前田哲監督がメガホンをとった笑いと共感の痛快エンターテイメント。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『九十歳。何がめでたい』の前田哲監督に、本作品の見どころ、撮影時のエピソード、映画への思いなどを伺いました。

100歳と90歳の潔さの迫力

池ノ辺 『九十歳。何がめでたい』、おもしろかったです。でも大変だったんじゃないですか、90歳と100歳の大先輩方を相手に(笑)。

前田 撮影が始まる前に、表参道でお会いしたんです。佐藤愛子先生は「エッセイはドラマがないから映画にならないのよ」とおっしゃっていたんですけど、とにかくこちらはプロット立てて台本書いて、それを読んでいただいたところでお会いしました。そしたらその台本に、付箋がブワッと付いているんです。「このエピソードはおもしろくない。エッセイには書いてないけどもっとおもしろいのがあるから」「このセリフはつまらないから変えた方がいい」と台本をめくりながら言われて、こちらは、「それはおもしろいけど映像化するのは難しいなあ」とか「いや、そのセリフは原作どおりなんだけど」と思いながら「そうですか」と聞いていて、「じゃあ、このセリフにしたらどうですか」と言ったら「あなた意外と頭の回転速いわね」と99歳の大先輩に褒められて、ちょっと悦に入っておりました(笑)。

池ノ辺 快活でお元気な方なんですね。

前田 その時は、草笛光子さんも一緒で、まあお2人ともよく食べられるし、お元気ですよ。

池ノ辺 お二方とも?

前田 肉もお酒も大好きですね。

池ノ辺 お二方ともおしゃべりされるイメージですね。

前田 そうですね。でも、記憶力も素晴らしいです。芯が通っているし捌けているし、そういうところは似ているんですよね、お二人とも。潔くて、竹を割ったようなスパッとした性格で、かっこいい。憧れます。僕は、どちらかというと餅をついたような性格ですから(笑)。

池ノ辺 じゃあ、お二方とは相性がいい中でやってこられたんじゃないですか。

前田 どちらかといえば、こちらがいろいろ楽しませていただいた感じです。