人を魅了し人を動かす映画の力
池ノ辺 監督は、フランスでの撮影が心地よかったとおっしゃっていましたが、それはどんなところですか。
黒沢 これはフランスに限らず、もちろん日本もそうなんですが、俳優もスタッフも、僕がやりたいことを一生懸命具体化してくれようとする、そこに本当に熱心に取り組んでくれます。これはまさに映画というものの魔力だと思うんですが、フランス人など言葉も通じないし普段は約束してたって平気で1時間くらい遅れてきたりする。それがこと映画となると、30分前にはみんな来ていて、通訳を通して僕がこうしたいと話すのを一生懸命に聞いてくれて動いてくれる。全力を出し切ってくれる。それは気持ちがいいし、感謝しかないですよ。
池ノ辺 それは黒沢監督だからじゃないんですか。
黒沢 いや、やはり映画に携われることが彼らの誇りであり、単に仕事をしているというだけじゃない充実感を味わうことでもあるんだろうと思います。映画というものの価値が、日本以上に高いんだろうと思います。
池ノ辺 スタッフさんだけじゃなく役者さんもそうなんですね。
黒沢 そうですね。これは日本でもそうなんですけど、俳優も、映画に出演するとなると、自分がやりたいようにやるというのではなくて、監督が望んでいるもの、このストーリーで何が要求されているかというようなことも本当に一生懸命追求して、いろいろと挑戦してくれるんです。映画の価値というのは昔よりは下がっているような気もしますが、下がっているとはいえ、 “腐っても映画” ですよ。比較するのは変な話ですが、テレビドラマであればもう少し俳優としての個性を出すかもしれないけれど、映画だったら監督の言うこと、脚本に書いてあること、本当にそれを実現するために全力を出しますと多くの方が言ってくれます。
池ノ辺 映画の力ってすごいんですね。
黒沢 すごいんですよ。それにこちらがどれだけ応えられているか、不安もありますが、全て映画の力ですよ。
池ノ辺 そんな監督にとって、映画ってなんですか。
黒沢 魅力的な謎、ですね。これほどまでに人を魅了するんですけど、これだけ観て、撮ってもいるのに、いまだにその正体がわからない、謎です。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
『CURE』(97)で国際的に注目を集め、第54回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『回路』(01)で国際映画批評家連盟賞を受賞。その後も『叫』(06)、『トウキョウソナタ』(08)、『クリーピー 偽りの隣人』(16)など、世界三大映画祭を始め国内外から高い評価を受け続ける。『岸辺の旅』(15)では第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・監督賞を受賞、『スパイの妻 劇場版』(20)では第77回ヴェネツィア国際映画祭・銀獅子賞を受賞。本年24年は、第74回ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門にて『Chime』のワールド・プレミア上映を、また9月には『Cloud クラウド』が劇場公開される。
何者かによって8歳の愛娘を殺された父、アルベール・バシュレは、偶然出会った精神科医の新島小夜子の協力を得て、犯人を突き止め復讐することを生きがいに、殺意を燃やす。とある財団の関係者たちを2人で拉致していく中で、次第に明らかになっていく真相。その先に待っているのは、人の道か、蛇の道か。
監督・脚本:黒沢清
原案:『蛇の道』(1998年大映作品)
出演:柴咲コウ、ダミアン・ボナール、西島秀俊、青木崇高
配給: KADOKAWA
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