Jun 01, 2024 interview

今泉力哉 監督が語る 今まで手がけてきた作品と共通する部分があるから面白いものができると思って参加した『からかい上手の高木さん』

A A
SHARE

時間の流れ、空気感が魅力の今泉映画

池ノ辺 今回の作品は、人気のコミックを原作に、ドラマがあって、その10年後という設定で映画があるわけですが、この流れは最初から決まっていたんですか。

今泉 もちろんドラマも映画も作るという話は一緒にいただいたんですが、自分のところに来たときは、脚本家のチームとプロデューサーの方たちがドラマの脚本をざっくり作っていた段階でした。映画の方は流れはなんとなく考えてあって、自分がやるとなってから一緒に作っていきましょうということでした。ですから、脚本のところから、脚本家チーム、プロデューサー、小学館の編集の方も交えて、密に作り上げていけたのでそれはよかったですね。特に映画に関しては、設定が10年後ということなので、高木さんや西片がしないだろうと思われることはしない、その辺は丁寧にできたと思います。

池ノ辺 ドラマと映画、両方とも1人で監督するのは大変だったんじゃないですか。

今泉 もちろん大変は大変でした。特にドラマは話数もあるので、何人かでやるという話もあったんですけど、1人でやらせてもらえてよかったと思います。空気感とか時間の構築とかテンポ、温度感、その辺をすごく細かく意識して作っているつもりなので、それは1人で担当できてよかったです。スタッフは大変だったかもしれませんけど。

池ノ辺 スタッフも両方とも同じスタッフで通したんですか。

今泉 基本的には一緒です。メインのスタッフの一部、例えば助監督のチーフなどは別ですけど、助監督のセカンド、撮影部、録音部、美術部、衣装部などは共通するスタッフが多かったです。春休みを中心に3月、4月でドラマを撮って、7月、8月で映画を撮ったんですが、自分と密に関わるスタッフは、ほぼ1年も今泉と一緒では嫌だろうというのもあって変えました(笑)。まあ、嫌だから離れるというよりは、準備の段取りとかバランスとか距離感とかで、そういうふうにしました。

池ノ辺 そういえば、仕上がった映画を観て監督も泣いたと聞きましたが。

今泉 ラッシュの時かな、ほぼ完成系に近いかたちで通して観た時に、終盤、こんなに細かな芝居をしてくれていたんだとか、ふたりが自分の好きな温度感をわかってくれていたんだと気づいたり、想いを伝える、ということに費やした時間の長さのことを思ったりしているうちにグッとくるものがありました。現場で演出している時も、そりゃグッとくるんです。生で、目の前でお芝居が行われているから。でも、果たしてスクリーンを通して観たお客さんにこの感動が伝わるのだろうか、とか、いろいろ冷静に考えているので、そこまで感動したり泣いたりってことはないんです。だから、スクリーンを通して観てもグッときたのは嬉しかったですね。

池ノ辺 その時は、いろんなものが取り払われて、この映画の真髄のところを1人のお客さんとして観られたということでしょうか。

今泉 そうかもしれません。この作品に関しては、ちょうどいい距離感というか、俳優さんに任せたところが多いというものあるし、ネタバレという制約も少なくて、心穏やかに観ることができました。

池ノ辺 その穏やかさが空気感として作品にも表れていたんですね。

今泉 今の時代はテンポが速かったり、短い動画のようなものが多くて、映画館での2時間というのは、特に若い子たちには慣れないかもしれない。でも、その逆張りというわけではないんですが、自分は、時間をちゃんと使って視線の一つ一つが見ている人に伝わるような、カットの少ないものが好きなんです。映画の中で起きていることを、現実を見ているような、隣で起きていることを見るような、時間をリアルに体感できるような、そんなものとしてつくりたいんですね。この作品では、俳優やスタッフたちもそれを理解してくれてみんなでついて来てくれたという感じはありました。

池ノ辺 劇場で観てもらって、そこのところをぜひ味わってほしいですよね。

今泉 今回は特に、初めて東宝という大きなところでの配給になるので、この原作のファンの方をはじめ、今まで今泉力哉の映画を観たことがない人にも観てもらえるチャンスだと思っています。これまで私の映画を観てくださっていた人は、そんな大きな規模になって、スタイルも変わってしまったのでは? と不安に思う人もいるかもしれないですが、全然変わりません。同じです。そして、映画館では、ただ面白かったとかいい映画を観ただけではない、何かすごいものを観たと思えるような瞬間を体験してもらえるように作っているつもりです。さらにはこの作品だけでなく映画は面白いな、映画館で観るっていいな、そうなってもらえたら嬉しいですね。