Jun 01, 2024 interview

今泉力哉 監督が語る 今まで手がけてきた作品と共通する部分があるから面白いものができると思って参加した『からかい上手の高木さん』

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主役ふたりの絶妙なバランス感覚が保つ映画の純度

池ノ辺 ドラマ版もメインのふたりを始め、評判がとても良いようですが、映画版でのふたり、永野芽郁さんと高橋文哉さんも役にピッタリでしたね。キャスティングはどうやって決めたんですか。

今泉 プロデューサーと話して決めていきました。特に映画のふたりに関しては話していくうちに候補として名前が挙がっていったんですが、確かにあのふたりだったらいけると思ったんです。ただ、自分は他の作品を通してしかふたりを知らなくて、今回が初めてご一緒する仕事だったんで、実際どうなるだろうと、本人はもちろんスタッフも思うところはあったんじゃないかとは思います。

でも、衣装合わせや本読みの段階ですでに、カメラマンはじめとするスタッフも、もちろん僕も、これは大丈夫だと思いましたね。そもそも設定がドラマ版から10年後ですからね。年齢が上がったところで、変なかたちで色気が出たりして、原作にあるようなふたりの距離感が違うものになってしまったらどうしようと思ってたんですが、その心配はありませんでした。いい感じのカラッとした空気感というか、素朴でまっすぐで、というその空気はこのふたりでしか出せないと思います。

池ノ辺 それは、役者さんたちが脚本を読んで段々そうなっていったということですか、それともかなり細かく演出されたんでしょうか。

今泉 もちろん演出した部分もありますけど、自分がしたのは本当に微調整の部分で、本人たちが作ってくれている部分が多いです。そもそも自分の現場のやり方として、まずは俳優さんたちに好きに演じてもらうんです。それがどのくらいオーバーなのか、どれくらい驚くのか、どの程度の温度でからかうのか、まずやっていただいてそこから調整していく感じでした。今作は、いつも自分がやっているようなガチガチのリアリティよりの生っぽい温度の低いものでは成り立たないお芝居だと思うんですが、その辺は、ふたりが絶妙なバランスでやってくださったと思います。

池ノ辺 嫌味もないし、からかいがきつ過ぎたり変なギャグになっていたりというようなこともなくて、バランスがよい感じでしたよね。誰もが自分に投影できるようなそんな感じでした。

今泉 これは永野さんご自身の性格もあるのかもしれないんですが、例えばからかっている時の姿なども、それはもちろんお芝居をしているのですが、本当に、心から楽しんでいる感じで、愛おしそうに西片を見ていて。これは芝居なのかそう思っている気持ちが自然に出ているのか、境界が曖昧になるくらい混ざり合って、見ているこちらも楽しい気持ちになりました。

お芝居って、相手が誰であろうと常に自分が用意したものをやる、というのではいい芝居にはならなくて、相手が変わったり、反応が違ったりすれば、そこに合わせて自分の芝居も変わらなきゃ生き生きしないと思うんです。ふたりの芝居は本当にそんな感じで、相手と反応し合って、芝居を進めるということを大事にしてくれました。夏の暑い中での撮影で大変だったと思いますが、そこでしか生まれない瞬間をたくさん撮れました。

池ノ辺 撮影のスタート時から、ふたりは監督が思い描くようなかたちで目の前に立っていたんですね。

今泉 そうですね。最初の2、3日は調整があったかもしれませんが、その頃ふたりに対して本当に細かい演出をした瞬間があって、でもこの細かさは伝わるだろうかと思いながらの演出だったんです。例えば、1度目と2度目でちょっとだけスピードが変わっていたとか、ちょっと温度が下がっていたとか、そういうレベルのことです。その、本当に細かな機微について「次はこうしてほしい」と伝えたら、「そうですよね。わかりました」と応えてくださって。その差を理解してもらえた瞬間に「ああ、この現場は大丈夫だ、安心だ。このレベルを求めていいんだ」と思ったんです。それはすごく覚えています。向こうからすると、この違いに監督は気づくんだ、と思ってもらえたのかもしれないですね。そこでお互いに何か信頼のようなものが生まれた気がしました。

池ノ辺 ふたりのやりとりがすごく温かくて、懐かしさもあって、そうした感情に心が突かれる感じでしたね。

今泉 自分たちの年齢からすると、ちょっと懐かしいといった視点になりますよね。こんなにキラキラした時間は自分の経験にはなかったとしても、片想いしたりとか、好きな子に好きと言えなかったり、そういう思いはみんなしてるんじゃないですか。もちろん同世代の子たちは本当に等身大でリアルに感じられる。そういう意味では、普遍的なものがこの作品にはあると思います。それと、撮影した小豆島の風景も大きかったと思っています。あの景色の中じゃなければ、もしかしたらこの純度がちょっと嘘っぽくなってしまったかもしれない。あの景色にずいぶん助けられたという気がします。

池ノ辺 それはあるかもしれないですね。海も山も、自然が本当に生き生きしていて素晴らしかったです。

今泉 ありがとうございます。撮影場所が、小豆島ですから行き来は大変だったのですが、制作部がロケ場所をいろいろ探してくれて、カメラマン、助監督らスタッフたちと何度も丁寧にロケハンができたのがよかったと思います。

池ノ辺 あの教室の中の独特の雰囲気もいいんですよね。

今泉 窓から海が見えて、廊下側には山が見えて。あの場所で撮影できたことも大きかったです。