May 11, 2024 interview

シュー・グァンハン × 藤井道人 監督が語る 旅はまだ終わっていない『青春18×2 君へと続く道』

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青春18の旅はまだ終わっていない

池ノ辺 今回一緒に出演している清原果耶さんはどうでしたか。

シュー 彼女は、若いですが実力派の女優さんでした。撮影じゃないプライベートの清原さんは、本当に可愛らしくて、でもどこか大人の成熟した魂を持っているようにも感じました。ですから完璧ですね。

池ノ辺 監督から見た清原さんはどうでしたか。

藤井 彼女とはこれまで2回、今回含め3回一緒に仕事しているんです。15歳の少女だった『デイアンドナイト』(2019) の奈々、18歳の『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020) のつばめ、そして大人になった今回のアミと、その変遷と成長を親戚のおじさんのようにずっと見守らせてもらってきました。大人になった清原さんは、現場に気配りができるしスタッフのケアもできて、何よりグァンハンときちんとコミュニケーションを取れるような女優さんになっていた。それは清原さんだけじゃなくグァンハンも、2人が役として必要だと考えて率先してコミュニケーションをとってくれたのがすごく嬉しかったですね。

池ノ辺 今回の作品は、「旅に出る」というのが一つの大きなテーマでしたね。

藤井 もちろん恋愛の要素もあるけれど、親子の情、友情、仕事もあって、自分が自分自身を確認するという旅でもあったのかなと思います。

池ノ辺 監督にとって今回の旅はいかがでしたか。

藤井 まだ終わっていないですね。これからアジアツアーでアジア各地にこの映画が届いて、それぞれの観客に届いて、それでようやくこの旅は終えることができるんだと思います。撮影に関して言えば、ここ数年でこんなに楽しかった撮影はない、というくらい楽しかった。というのも、今回の撮影は、やっぱり映画ってすごい、こんなに楽しいことを自分の仕事にできたんだと確認する旅でもあったような気がします。海を越えて、これまで知らなかった仲間たちを一つのチームとして撮影ができる。それはそうそう簡単にできるようなことじゃない、すごく恵まれていると、そう思いました。

池ノ辺 では、グァンハンさんへの最後の質問です。グァンハンさんにとって、映画とは、演じるとはなんですか。

シュー それはずいぶん哲学的な質問ですね。僕が思うには、映画というのは時に世間の人たちの疑問に答えるようなものであり、また時には世間の人たちに問いを投げかける、そういうものではないかと思います。

池ノ辺 今回の映画についてはどうですか。

シュー 僕は、映画に出演する時にいつも観客の皆さんに僕が何かを伝えようと思っているわけではないんです。ただ、皆さんが映画をご覧になって、気づいてほしいことというのはあります。今回の映画は、人が旅に出ることの意味を皆さんに投げかけていると思います。旅によって人は自分自身を再発見することができ、それによってまた成長していくし癒やされもする。また、旅の途中で出会ういろんな人々、いろんな出来事、こういった出会いによって、自分の固定観念が崩されたりあるいは反省させられるということもあると思います。そして旅の一番の気づきは、おそらく、「世の中ってこんなに広いんだ」ということじゃないでしょうか。こんな広い世界から見れば、自分は本当にちっぽけな存在で、それを悟ることができれば、それまで自分が持っていた悩みも問題も、取るに足らないものだと気づけるはずです。より謙虚なスタンスでいろんな出来事や人々に接することができると、僕はそう考えています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 藤本礼奈

プロフィール
シュー・グァンハン

俳優

1990年、台湾生まれ。2013年「潛入藍中籃」で初主演を果たし俳優デビュー。2016年に植劇場シリーズドラマ「戀愛沙塵暴」、そして「先生、本当の恋って?」に出演し、台湾のエミー賞とも称される第52回金鐘獎で連続ドラマ助演男優賞にノミネート。その後も「時をかける愛」(19)で第55回金鐘獎の連続ドラマ主演男優賞にノミネートされ、アジアからの注目を集める。主な映画出演作は『ひとつの太陽』(19/チョン・モンホン監督)、『僕と幽霊が家族になった件』(23/チェン・ウェイハオ監督)など。その中、『僕と幽霊が家族になった件』は台湾映画史上第7位となる興行収入3.6億台湾ドル(約16億円)をあげる爆発的ヒットを記録。第96回米アカデミー賞国際長編映画賞部門の台湾代表にも選出されるなど、今年の台湾を代表する作品となった。最近は台湾で公開されるスタジオジブリ『君たちはどう生きるか』のアオサギ役の吹き替え声優を務め、話題の韓国ドラマ『No way out』の出演も決定。

藤井 道人(ふじい みちひと)

監督

1986 年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。2014年伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』で商業作品デビュー。第43回日本アカデミー賞にて映画『新聞記者』が最優秀作品賞含む6部門受賞、他にも多数映画賞を受賞する。『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、 『ヤクザと家族 The Family』(21)、『余命10年』(22)など精力的に作品を発表しており、今年は『ヴィレッジ』、『最後まで行く』が続けて公開。今最も動向が注目されている映画監督の1人である。

作品情報
映画『青春18×2 君へと続く道』

高校生・ジミーのバイト先に現れた日本から来た4つ年上のバックパッカー・アミ。ひと夏を同じ店で働き過ごすことになった2人だったが、次第にジミーはアミに淡い恋心を抱いていく。夜道をバイクで2人乗りしたり、映画を観に行ったり、2人の距離は縮まっていったが、突然、アミが日本に帰ることに。気持ちの整理がつかないジミーに、アミは“ひとつの約束”を提案する。時が経ち、あるきっかけで久々に実家を訪れたジミーは、日本に戻ったアミから18年前に届いたハガキを見つける。初恋の記憶がよみがえったジミーは、過去と向き合い、今を見つめるため、初めての日本での一人旅へ。アミとの思い出の曲を聞きながら列車に乗り、ジミーが向かうのは彼女の故郷。ジミーはアミとの再会を果たせるのか。

監督・脚本:藤井道人

原作:「青春18×2 日本慢車流浪記」

出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2024「青春 18×2」Film Partners

公開中

公式サイト seishun18x2

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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