Feb 29, 2024 interview

プロデューサー ジャスティン・マークス & 脚本 レイチェル・コンドウが語る ディティールにも徹底的にこだわった「SHOGUN 将軍」

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なぜ、今「SHOGUN 将軍」のリメイクなのか

池ノ辺 これはかなり大きな質問ですが、なぜ今、改めて「SHOGUN 将軍」を撮ろうと思ったんですか。

コンドウ 確かに大きな質問ですね(笑)。

マークス この企画に取り組んできた5年間、僕たちはその質問をずっと自らに投げかけ続けています。アメリカで原作本が出た時、すごい人気でした。というのも、当時は我々はあまり日本のことを知らなかったので、全てが新鮮だったと思うんです。そして80年にドラマ化された時よりも後に僕らは生まれているんですが、今や、そうした新しさ、新鮮さはありません。アメリカ人は普通にランチで寿司を食べるくらいですから(笑)。じゃあ、今、「SHOGUN 将軍」を撮る意味はなんなのか。僕たちは、この新しい「SHOGUN 将軍」を、グローバリゼーションの進んだ世界にどう届けるべきかを考えました。そしてその答えを原作本の中に見つけたと思います。

池ノ辺 それはどういったことですか。

マークス この本のメッセージは、違う文化に出会うということの意味です。違う文化に出会った時に、それを自分が好奇心を持って受け入れることができるか、敬意を持って接することができるか、お互いの違いを認め合うことができるか。それは自分自身を振り返るきっかけにもなるし、新たな自分を発見するという意味もあると思います。

池ノ辺 実際に何か発見できましたか。

マークス この企画での僕たちの目標の一つに、今までのハリウッドの映画やテレビの中での間違い、本物と全然違うように描いてしまってきた間違いを正したいということがありました。今回は、真田さんが本作に合流して、長いリストを持ってきてくれました。こういうところが違うんだ、こういうところを変えてくれ、というリストです。そこを真剣に追求するために映像を作るアプローチさえ変えたんです。

この撮影は、旅のようなものでした。カナダ、アメリカ、日本の俳優、スタッフ、みんなが一緒になって最高のものを作ろうとする旅です。その旅の中では、間違いはあってもいい、その時にそれは違うと指摘できるということが大切です。そしてその声には真摯に耳を傾けること。そしてどうしたら良くなるのかをみんなで考えること。11カ月にわたりそれを続けてきて、僕たちは家族のような存在になりました。家族というのは常に仲良くできるわけじゃないですよね。そういう意味で僕たちはいろいろやりとりしながら一緒に成長していった。それを、すごく実感しています。

コンドウ 彼は今、旅という言い方をしましたけど、その旅の中では私たちはまだまだ知らないことがたくさんあって、知らないということを認めてそこから出発することが大事なんだとわかりました。そしてこのプロジェクトはとても大きくスピードも求められていたことから、私たちは車を作りながら運転している様な感覚でした(笑)。

マークス 映画やドラマを作るにあたっては二つのアプローチがあると思います。一つは自分たちがコントロールしてどんどん進めていくやり方。でも今回の作品は本来僕たちの視点で描くべきものではないので、うまくいかない。じゃあどうするのか。これは、主人公である吉井虎永が言っていることですが、「我々は風をコントロールすることはできない、風が我々をコントロールする」と。だから風に耳を傾ける、プロセスを学ぶ、自分たちの言いたいことだけを主張するのではなくて周りの意見を聞き、その声に耳を傾ける。そうすることで正しいもの、より良いものができるんじゃないでしょうか。

池ノ辺 日本人である私も、違和感なく時代を超えた経験ができました。お二人のお話を伺って、このドラマを作ることの意味、宿命をすごく感じました。

コンドウ それは本当に最高の褒め言葉です。