サッカー少年が映画を作るまで
池ノ辺 監督は元々映画が好きだったんですか。
戸田 僕は学生時代はずっとサッカー部で、サッカーばかりしていたんです。高校生になって、大学受験の志望校を決めなければいけないとなっても、特にやりたいこともなく、サッカーばかりしていたので、これといった趣味もありませんでした。映画もその頃までは、実はあまり観ていません。それが、高3になったばかりの頃に近くのレンタルビデオ屋でビデオを借りることを覚えて、それから映画を観るようになってハマっていったんです。
池ノ辺 でも大学は演劇専攻だと。
戸田 間違えて入ったんです(笑)。映画が好きになって、映画に関わる仕事がしたいと思って、予備校の先生に相談したら、近畿大学のこの学科に映像の授業があると教えてくれました。推薦入試があったので受けたら受かって。大学に行ってみたら映像の授業は1コマしかなくて、あとは全部演劇だったという(笑)。でも、実際に演劇を学んでみるとすごく面白くて、そこからは演劇にどっぷり入っていきました。ただ、やはり映画も撮ってみたかったので、自主映画を撮るようになりました。
池ノ辺 監督の一番好きな映画は何ですか。
戸田 邦画で最初に好きになったのは岩井俊二さんの『Love Letter』(1995)です。
池ノ辺 今回、岩井俊二監督とは釜山でご一緒されたのでは?
戸田 近くにいらっしゃったんですが、あまりにリスペクトが強くて、とても声はかけられませんでした。
池ノ辺 その気持ちはわかります(笑)。それにしても、何年もかけて、練り上げた作品が形になって、こうやって世界に行き渡っていくことは本当にすごいことです。
戸田 それはもう、本当に感慨深いです。
池ノ辺 サッカー少年が映画が好きになり演劇に目覚めて、そして今、映画監督になっているわけですね。さて、それでは、最後の質問です。監督にとって映画とはなんですか。
戸田 難しい質問ですね。僕にとっての映画は、普通に生きているのでは出会えない他人との出会いだと思っています。誰かの人生を見つめていくというのは、普通に生きている時にはできないことで、映画はそれに出会わせてくれるものなんだろうと思います。
池ノ辺 それは監督として、作る側としてそう思っているということですか。
戸田 そうですね、そう思って撮っていますね。
池ノ辺 私たちは監督のその作品を観ることによって、また新しい出会いがあるわけですね。
戸田 僕の作品を通して、市子という人生に出会ってもらえるといいなと思います。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1983年生まれ。奈良県出身。チーズfilm代表取締役。チーズtheater主宰。日本劇作家協会会員。映画監督、脚本家、演出家として活動。2014年に『ねこにみかん』で劇場デビュー。代表作は、映画『名前』(18)、『13月の女の子』(20)、『僕たちは変わらない朝を迎える』(21) 、『散歩時間~その日を待ちながら~』(22)などが有り、国内外の映画祭で受賞。舞台では、「川辺市子のために」がサンモールスタジオ選定賞2015最優秀脚本賞を受賞。ほか、チーズ theater 全作品の作・演出を担当。外部演出は、大竹野正典作「黄昏ワルツ」、横山拓也作「エダニク」、花田明子作「鈴虫のこえ、宵のホタル」、松田正隆作「海と日傘」など。近年は、佐久間宣行が企画、根本宗子が脚本を担当したsmash.配信ドラマ「彼の全てが知りたかった。」(22)を監督。舞台「ある風景」(23)が日本劇作家協会プログラムとして上演された。
川辺市子は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則からプロポーズを受けた翌日に、忽然と姿を消す。途⽅に暮れる⻑⾕川の元に訪れたのは、市⼦を探しているという刑事・後藤。後藤は、⻑⾕川の⽬の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生‥‥と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は市子が置いていったカバンの底から1枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。
監督:戸田彬弘
原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「市子」製作委員会
公開中
公式サイト ichiko-movie