「X」の存在が問いかける人間の真髄
池ノ辺 このタイトルで、予告編の雰囲気からしても、どちらかというとミステリーやSFなのかと思いそうですが、そうじゃない、むしろ人間の真髄に入っていくような作品ですよね。
熊澤 僕たちが見知らぬ人に違和感を覚えるとか、フィルターをかけて見てしまうというのは人間だからある意味仕方がないと思うんです。人間はそういう弱い部分がある。じゃあ、それがわかった上で、どうしていこうかということです。その弱さを前提に、他人とどう向き合うのか、どう歩み寄っていくのか、そこからコミュニケーションをとって理解しあっていくということがすごく大切な時代になってきていると思うんです。コロナ禍で、世界の分断がいっそう進んだということもあると思います。
今のパレスチナの問題やウクライナの問題の本質の部分にもつながっている。地球上で考え方の合わない人間同士の戦争や紛争が起きてしまっているわけです。もちろん難しさはある。人間みんなが分かり合えるとは僕も思っていませんが、でもそこは頑張ってその難しさを乗り越えていかないと。お互いに理解する部分、共感できる部分を少しでも見つけて話し合っていかないと、このままでは未来がなくなってしまうという危機感があります。
僕がこの映画を作りたいと思った根底にそうした想いがあって、そこまで含めた表現がこの映画でできるんじゃないかと思ったんです。皆さんがこの映画を観て、どうしても自分の中に生まれてしまう偏見の芽、みたいなものに向き合って、自分だったらどうするだろうか、そういうことを考えてもらえたらいいなと思っています。
池ノ辺 確かに私も考えさせられました。頭ではわかっていても見た目に左右されたりして間違った判断をしてしまうというのはありがちですよね。
では、最後の質問です。監督にとって映画ってなんですか。
熊澤 僕にとっては、無いと生きていけないものですね。映画を取り上げられてしまったら生きていけないと本当に思います。今は映画監督としてなんとかやってますけど、監督になる前から映画に助けられて、映画があるから生きてこられたとすごく思っていました。ですから、皆さんに楽しんでもらえるような映画をもっと作って貢献していけたらいいなと思っています。
池ノ辺 これからも応援しています。
熊澤 がんばります。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理
監督
1967年、愛知県出身。大学卒業後、ポニーキャニオンに入社し、映画プロデュースに携わる。1994年、『りべらる』がPFFに入選。2004年短編『TOKYO NOIR〜Birthday』でポルト国際映画祭最優秀監督賞を受賞。2005年自身のオリジナル脚本による『ニライカナイからの手紙』で商業監督長編デビュー。代表作は『虹の女神 Rainbow Song』(06)、『ダイブ!!』(08)、『おと・な・り』(09)、『君に届け』(10)、『近キョリ恋愛』(14)、『心が叫びたがってるんだ。』、『ユリゴコロ』(共に17)、『ごっこ』(18)、『おもいで写眞』(21)など。上野樹里とは『虹の女神 Rainbow Song』以来17年ぶり、林遣都とは『ダイブ!!』以来15年ぶりのタッグとなる。
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか?彼らの目的は何なのか?人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ‥‥!
監督:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
出演:上野樹里、林遣都、黃姵嘉、野村周平、川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、酒向芳
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
公開中
公式サイト rinjinX