Dec 02, 2023 interview

熊澤尚人 監督が語る 日本に暮らす多くの人が直面する話を描いた『隣人X -疑惑の彼女-』

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上野樹里と林遣都、である必然

池ノ辺 この微妙な年齢の女性を上野樹里さんがすごく上手く表現していました。樹里さんにしようと思ったのはなぜですか。

熊澤 脚本の第1稿を書いている時に、これは樹里さんだなーと思ったんです。その後若干直した第2稿を樹里さんに送ったら、彼女に「何で私なんですか」と聞かれたんです。それで、自分でもなぜそう思ったのか整理して考えてみました。

樹里さんには、僕にとっても大きな作品の一つである『虹の女神 Rainbow Song』(2006)という作品で主演をやってもらっています。樹里さんは、周りの価値観に振り回されることなく自分の心で感じたり自分の頭で考えたことで決断できる人なんです。それが彼女のすごい魅力で、強く印象に残っていました。今回、その魅力を持っている樹里さんが、ヒロインの良子をやることで、この役にものすごく説得力が出ると、それで彼女にオファーしたんだと、後で気づきました。

池ノ辺 彼女が「36歳です」と言ったシーンで、驚いたと同時にそこに至るまでにいろいろあったんだろうと思わせてくれる、そういう深みのある演技でした。

熊澤 期待通りというか期待以上でした。今まで樹里さんが演じてこられたイメージと近いけれどちょっと違う、今回は大人の樹里さんの魅力がすごく出ているんじゃないかと思います。撮影中も、撮影が終わって編集段階でも、これは上野樹里の新しい魅力がふんだんに出ているぞと自信を持って胸を張れます。樹里さんのおかげですが(笑)。

池ノ辺 そこは監督の力量でもあるんでしょう(笑)。そしてもう1人、林(遣都)さんにも驚きました。

熊澤 林くんのことは昔から知っていますし、一緒に仕事したこともある。ここ最近の彼の出演した作品はけっこう観ています。それにこの業界にいると、俳優さんたちの話もいろいろ伝わってくるんですが、役に対してものすごくストイックでかつ努力家なんです。アスリートのようにたくさん練習して役に向かうとか。「それでこういう役ができるようになったんだ」と彼に対して思うことが多かったわけです。たまたまオファーする直前に林くんが主演した『犬部!』(2021)の初号試写を観る機会があって、そこで久しぶりに会って話ができました。彼は求められている役を的確に理解し表現する、そして役によって毎回違う魅力を出してくる。今回の『隣人X』の笹は、そういう力のある俳優じゃなければ難しいが、林遣都だったらできると思ってお願いしました。

池ノ辺 林さんは顔立ちがやさしくて綺麗なので、そちらの雰囲気を強みにしている役者さんなのかなと思っていたんですが、今回、本当に人間の本質というか真髄を表現できる、ピッタリの役者さんでした。

熊澤 人によっては弱い部分とか情けない部分を見せるような役はあまりやりたくないという俳優さんもいるのかもしれませんが、林くんは違うと知っていましたから。今回の笹は、ものすごく無様な自分を晒さなければいけないキャラクターですが、そこは徹底的にストイックな演技の鬼なので、真摯に演じてくれました。

池ノ辺 まわりを固める役者さんたちも皆さん素晴らしかったんですが、特に2人は新たな魅力を見せてくれたと思いました。

熊澤 良かったです。2人がこの映画の最大のアピールポイントですから(笑) 。