Dec 02, 2023 interview

熊澤尚人 監督が語る 日本に暮らす多くの人が直面する話を描いた『隣人X -疑惑の彼女-』

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ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか? 彼らの目的は何なのか? 人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生えるが、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ‥‥!

第14回小説現代長編新人賞を受賞し、次世代作家として大きな注目を集めるパリュスあや子の小説「隣人X」を、熊澤尚人監督が新たな視点を盛り込み完全映画化。良子を上野樹里、雑誌記者の笹を林遣都が演じる。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『隣人X -疑惑の彼女-』の熊澤尚人監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

36歳女性、である必然

池ノ辺 熊澤監督は監督になる前は、(株)ポニーキャニオンに勤められてたんですよね。それがいつの間にか映画監督になり賞を取られたと聞いて、周りがざわめいていました。みんなすごく応援していたんですよ。

熊澤 ありがたいです。当時はバカ・ザ・バッカさんが作った予告編でもずいぶん勉強させてもらいました。

池ノ辺 『隣人X -疑惑の彼女-』観させていただきました。おもしろかったです。Xって誰?と、どきどきしながら見てました。役者の表現力も素晴らしく、見応えありです。この映画は原作がありますよね。

熊澤 原作では、ほかの惑星からやってきた難民Xの受け入れを開始した日本が舞台、という入り口がすごい設定なんですけど、実際に描かれているのは女性たちの慎ましやかな日常、日本にいて苦労している世代の異なった3人の女性たちの話です。その中で、隣にいる人に対するフィルターや色眼鏡で相手を見てしまうといった、無意識の偏見がテーマで描かれていると感じました。

ちょうど原作を読んだのが、コロナが収束には向かっているんだけど、まだあと何波かあるかなという頃で、そのテーマがすごく実感として入ってきたんです。コロナを経験したからこそ、見えてきてしまったこと、他人との距離感が明らかに変わって、今までオープンにならなかったことが炙り出されてきた。それがすごく興味深く思えてこれは映画にすべきだと思ったんです。

池ノ辺 主人公の設定なども原作とは違いますね。

熊澤 原作は、3人の女性の群像劇なんですが、群像劇はプロデュース側で二の足を踏む方が多いんです。というのも、2時間という限られた時間の中で登場人物が複数に分かれると、人物を掘り下げる時間が少なくなり、話が小さくなりがちなんです。だったら、原作どおりではないけれど、原作が大切にしている心臓の部分は変えずに中心の主人公を一人決めて映画ならではの“隣人X”を作ればおもしろくなるんじゃないかと考えました。

池ノ辺 主人公を36歳の女性としたのはなぜですか。

熊澤 日本に暮らすこの年代の多くが直面すること、特に女性たちは多かれ少なかれ身に覚えのある話を描くことで、多くの人が共感してくれるんじゃないかと思ったんです。

池ノ辺 男性である監督がそう感じたのは、周りを見てということですか。

熊澤 映画化する際、26歳の女性にするのか、45歳の女性にするのかと考えていった時に、このテーマに照らし合わせると、これは36歳の女性である必然があるんじゃないかと思ったんです。僕が勤めていた会社は、当時から女性の先輩たちがすごく活躍されている会社で、それは素晴らしいと思っていたんです。今では取締役になっている先輩もいたりして‥‥。でも、そういう女性たちが30代にかかってくると、仕事と出産とどちらを取るのかという話になりがちでした。周りからフィルターを通してみられてしまうということもあったと思います。そういう中で、女性たちが多くの悩みを抱えているのを見てきて、それは男性たちにはなかなかわからないだろうというのも見えました。今は少しずついい形に変わってきてますけどね。

池ノ辺 それは監督が会社員だったからこそ見えたのかもしれませんね。確かに最近は随分変わってきました。コロナがそれを後押ししたということもあると思います。