映画は人と人をつなぐ架け橋
池ノ辺 撮影の時はコロナ禍の影響はありましたか?
穐山 撮影は今年の1月で、もうずいぶん落ち着いてはいましたが、まだみんなマスクをつけているという体制で行いました。
池ノ辺 コロナ禍で話し合いができないとか打ち上げができないとか大変ではあったけれど、逆にプラスのこともあったという監督さんも結構いらっしゃいました。
穐山 確かに、コロナだけじゃなくて、映画業界としても働きやすさとかそういったことをもう一度考え直そうという時期だったと思います。私たちも、できるだけ皆が良い形でパフォーマンスが発揮できるような環境を整えて、その中で撮影しようというのはかなり意識しましたから、皆さんの協力で和やかに撮影できたと思います。
池ノ辺 働き方を考えるというのは今やどこの業界でも言われてきていますが、アパレルと映画とではずいぶん違いますか。
穐山 違うといえば違います。特に私が今働いている会社は、本社が米国の外資系の会社ですから、社員の労働環境に対する考え方は厳しい方だと思います。一方で映像の業界では私は完全にフリーランスです。映像関係の業界でフリーランスになると、どうしても長時間労働になってしまうこともあって、その辺りは差を感じますし、課題だと思っています。ただ、どちらもクリエイティブなところを大事にする業界ですから、そういう意味では共通する部分もあります。
池ノ辺 映画業界は、本当に映画好きな人がいっぱいいますからね。たまの休みでも結局映画を観にいって全部映画三昧という‥‥。
穐山 本当に、その情熱はなかなかですよね。
池ノ辺 監督もそうですか。
穐山 そうですね。私も映画が好きで、映画の現場に携わることも好きなので、そこに向かわせるのは、そういう規則を超えた個人の情熱なんだと思います。仕事だからやるというのではなく楽しいからやる、そういうむちゃくちゃ原始的な欲求に突き動かされてる感じです(笑)。
池ノ辺 そこまで好きなことを現実にできているのって嬉しいし楽しいですよね。
穐山 それはそう思います。好きなことを見つけた時には30歳近くになっていたわけですが、あまりそこで年齢を気にするようなタイプではなかったので、そちらに思い切って突き進めたのが良かったんだと思います。本当に自分がやりたいことが見つかるまではかなり燻っていましたけど。
池ノ辺 監督の映画はもちろんですが、監督の存在自体が、映画をやりたい人たちに、ものすごく勇気を与えているんじゃないでしょうか。今は会社員だけど映画を作りたい人はたくさんいると思いますから。そんな監督にとって映画とはなんでしょうか。
穐山 本当に個人的な答えになりますが、私にとってはコミュニケーションのツールの一つです。自分は言葉で表現することが結構苦手な方なので、日常で感じた気持ち、思いというものを誰かと共有したいと思った時に、その手段になるのが私にとっては映画なんです。それは自分が映画を作る時にはそこに思いを込めて作るということであり、同じ映画を観て、それを人と分かち合う、ということでもあります。そこにコミュニケーションが生まれる、映画というのはそんな、人とつながる架け橋のようなものだと思います。
池ノ辺 監督が作った映画を若い人たちが観て、そこに共感して、そこでコミュニケーションがたくさん生まれる、それは素敵なことですね。
穐山 ぜひ、映画を観て人と語り合ってほしいと思います。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 藤本礼奈
監督
映画監督・脚本家。ファッション業界で会社員として働きながら、映画美学校にて映画制作を学ぶ。修了制作作品『ギャルソンヌ』が第11回 田辺・弁慶映画祭 2017に入選。長編デビュー作『月極オトコトモダチ』が第31回東京国際映画祭に出品され、MOOSIC LAB 2018では長編部門グランプリほか4冠を受賞。2作目のオリジナル長編『シノノメ色の週末』では第31回日本映画批評家大賞 新人監督賞を受賞。最新作は2023年秋公開の映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。
元SDN48で作家の大木亜希子の実録私小説「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」を映画化。主人公・安希子は、仕事なし!男なし!残高10万円!人生に詰んだ!?ドン底アラサーに‥‥!そんな中、ルームシェアすることになったのは56歳のおっさん・ササポン。もがいて、泣いて、人生に奮闘する安希子はどうなる!?
監督:穐山茉由
原作:大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社刊)
出演:深川麻衣、松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛 、河井青葉、柳憂怜、井浦新
配給:日活/KDDI
©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
公開中
公式サイト tsundoru-movie