Nov 07, 2023 interview

穐山茉由監督が語る 普通のアラサー女子の苦悩と再生の物語『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

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ちょっとありえない設定の奥にある、普通のアラサー女子の苦悩と再生

池ノ辺 今回の作品は、アラサーの元アイドルがいろいろ悩んでどん底に落ちたところから変わっていく、という作者の体験をもとにした小説が原作です。どういう流れで映画化しようと思ったんですか。

穐山 最初原作を読んで、このアラサーと呼ばれる世代の女性が抱える感情がめちゃくちゃリアルに、痛々しいほどリアルに描いてあるなと思って、そんなふうに気持ちをストレートに出せるというところが単純にすごいなと思ったんです。実際に原作者の大木亜希子さんともお話しさせていただきました。特に私がおもしろいと思ったのは、ササポンというおじさんの存在、ササポンと安希子との距離感ですね。

このタイトルからすると、このふたりの間にいかがわしいような何かが起きるかもしれないと誤解される方もいると思うんですが、それは全くない。年齢差はあるにせよ男女なんですが、恋愛感情はない。そんなふたりが、ササポンの家に亜希子が居候するという形で住んで、普段はあまり関わることのないふたりが一緒になった時の関係性、そこから亜希子がどんなふうに再生していくのか。主人公は確かに元アイドルなんですけど、その悩みは結構根本的な、普通に30歳手前になった女性が抱きそうな悩みで、そういう女性が人生に詰んでしまったらどうするのか、そこを大事にしよう、というところをみんなで共有して作り上げていきました。

池ノ辺 役者さんたちもすごくはまっていました。どうやって選んだんですか。

穐山 主演の深川麻衣さんは、実際に元アイドルということで主人公との共通点はあるんですが、私としては、彼女の持っている素直さ、真っ直ぐさに惹かれました。それまで直にお会いしたことはなくて、作品を通して感じていただけなんですけど、ああいう真っ直ぐな人が、こんなふうに毒づいたらおもしろそうだと思ったんです。この作品は、主人公が毒づいて毒づいて、それを受け入れて昇華していくという話なので、どの毒づきも嫌味にならないように、観る人が、これは私かもしれないと共感できるような余白のある人がいいと思って、それに深川さんはピッタリだと思ったんです。

池ノ辺 確かに、ひどく毒づくんだけれど、それも一生懸命に頑張っている気がして、そこに共感しつつ、次第に彼女が変わっていくところにもかわいらしさが感じられました。少しずつ落ち着いて、余裕が出てくる、そんな変化に見ているこちらも嬉しくなるような、そう思わせてくれる主人公でした。ササポンもよかった。

穐山 井浦(新)さんは、もともと、とてもかっこいい方ですが、かっこいいおじさんというよりはどこにでもいる普通のおじさんというふうに演じてほしいと思いました。ただ、安希子が救われていく理由の一つに、かつて安希子が気にしていた世間体とか世間の流れみたいなところから距離を置くというのがあると思うんです。井浦さんが持っているちょっと不思議な存在感、普通のおじさんでありながらあまり世間に囚われていなさそうな、自分というものをしっかり持っている感じが、説得力がありそうだと思って、井浦さんにお願いしたら、すごくピッタリとはまりました。

池ノ辺 実在のササポンさんご本人には会われたんですか。

穐山 まだお会いしていないんです。初めは撮る前に会おうと思ったんですが、すでに大木さんと会っていますから、ここでササポンにも会ってしまうと、そこに縛られてしまいそうな気がして結局、撮影前に会うのはやめました。自分が原作を読んでそこから受け取ったササポン像というものが私なりにもあって、それが原作の本質のところからブレていなければ大丈夫だろうと、映画版のササポンをつくることにしたんです。

池ノ辺 うちに帰るとすぐにテレビつけて、ビール飲んでおしんこを摘んで、その辺が昭和な感じで癒されました(笑)。

穐山 何か実家にいるような穏やかな空気感があって、その辺がササポンらしい感じですよね。

池ノ辺 その後のササポンがどうなったのかはすごく気になります(笑)。