Nov 07, 2023 interview

穐山茉由監督が語る 普通のアラサー女子の苦悩と再生の物語『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

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元アイドルの安希子は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら、仕事もタフにこなしているつもりだったが、ある日の通勤途中、駅で足が突然動かなくなってしまう。メンタルが病んで会社を辞めた安希子は、仕事ナシ、男ナシ、残高10万円の現実にぶちあたる。そんな時、友人から勧められたのが、都内の一軒家で一人暮らしをする56歳のサラリーマン、ササポンとの同居生活。意外な提案に戸惑いながらも、まさかのおっさんとの奇妙な同居生活がスタートする。

監督は、ブランドのPRとして働きながら、映画監督として活動する新鋭の監督・穐山茉由。大木亜希子の同名の小説「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」を原作に、主人公・安希子役に元乃木坂46の深川麻衣、ササポン役に井浦新を迎え、詰んだ人生からの癒しと再生をリアルに描く。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』の穐山茉由監督に、アパレル会社の社員と映像の仕事の両立、本作品や映画への思いなどを伺いました。

会社員だからこそ描ける日常の機微

池ノ辺 監督は今でもアパレル会社で広報のお仕事をされているんですよね。

穐山 はい、さすがに正社員じゃないんですけど、週に2日、まだ会社での仕事をしています。フルタイムでは難しくなったので契約の形を変えて、映像と両立できるようにしました。

池ノ辺 会社員としてPRのお仕事から、どういう流れで映画監督になったんですか。

穐山 実は学生時代には自分が映画を作るという発想はなかったんです。それが、20代後半になってそれまでの自分のキャリアを見直した時に、そのままファッションの仕事をやっていきたいという気持ちももちろんあったんですが、一方で、自分でものを作りたい表現したい、という欲求があったんです。最初は、その欲求を埋めるために、いろんなことに挑戦しました。写真とかバンドとか、いろんな表現活動をやってみたんですが、その中で、ある時自主映画を撮ってみたら、どハマりしてしまって‥‥。

池ノ辺 おもしろかったんですね(笑)。

穐山 おもしろかったです(笑)。映画って、関わる人が多いので、自分の想像を超えたもの、思ってもみなかったものが生まれる時がある。全然うまくいかない時もあるんだけど、そのよくわからない部分も含めて、おもしろいと思ってハマってしまったんです。それで30歳になってから夜間で映画美学校に通いました。

池ノ辺 会社もそういうのを応援してくれたんですか。

穐山 会社には、こういう映画学校に通っていますという話はして、了解されてはいました。それが、初めての長編『⽉極オトコトモダチ』(2018)がいくつか賞をいただき、東京国際映画祭に出品されるというニュースを伝えたところ、そんなに本格的にやってたんだと驚かれて(笑)。

池ノ辺 普通の習い事程度と思われてたのが、賞なんか取っちゃってと(笑)。

穐山 どうやらこれは本気でやっているらしいぞと社内がざわめいて、ありがたいことに映像の仕事もいただけるようになってきたので、その辺りからシフトチェンジしていきました。

池ノ辺 そこからあっという間ですね。本当にいい作品を撮ってらっしゃると思いました。特に監督自身の経験など、日常でリアルに感じていることの表現が素晴らしいと思います。

穐山 自分の日常生活の中で感じたこと、嬉しかったこと悔しかったこと、その時の感情みたいなものを別の形で作品に昇華したいという気持ちはあります。会社勤めの経験があるからこそわかる気持ちとか、そういうものも私なりに表現したいと思ってます。

池ノ辺 今回の映画も、女性が仕事をしていく上で、30歳くらいになった時にいろんなことを考える、そういうリアルな状況がすごくうまく表現されていて、あるある、わかるわかる、そういう思いでした。監督のファンは、こういうところから勇気や元気をもらっているんだろうなというのがわかりました。

穐山 ありがとうございます。確かに年頃の女性が日々感じること、さりげない心の機微とかネガティブであまり表に出したくないようなことも含めて描いていたりするので、その辺に「私だけじゃないんだ」と共感して、元気をもらったという声はいただきます。それは嬉しいですね。