20世紀で最も偉大な芸術家の一人〈サルバドール・ダリ〉。常識を破壊する画期的な作品で人々の心を揺さぶり、独特の口ひげと奇抜なスタイル、数々の尊大な名言で、現代におけるインフルエンサーのような存在として、常に人々の注目を集めていた。そんなダリが、ポップカルチャー全盛期を迎えた70年代のニューヨークで、ファッションや音楽、アートを時代の最先端に立って牽引していく姿を描く刺激的な映画が完成した。
1974年、ニューヨーク。画廊で働き始めたジェームスは、憧れの芸術家ダリと妻のガラに気に入られ、個展を開くダリのアシスタントを務めることになる。ところがダリはパーティー三昧の日々を送り、作品は1枚も仕上がっていない。すると突然、ガラが金のために描けとブチギレ、ダリはジェームスの目の前で傑作を完成させる。ジェームスは個展終了後も彼らのもとで働くが、そこにはさらに不思議で危うい〈ダリ・ランド〉が待ち受けていた──。
監督は『アメリカン・サイコ』(2000)のメアリー・ハロン。そして衣装を担当したハンナ・エドワーズが色鮮やかな衣装で70年代の世界観を彩る。彼女が手がけたルイ・ヴィトンの広告映像を見て監督が熱望したという。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『ウェルカム トゥ ダリ』のメアリー・ハロン監督に、本作の見どころ、映画への想いなどを伺いました。
70年代ニューヨーク、ダリの意外な晩年を描きたくて
池ノ辺 なぜ、メアリー監督は、サルバドール・ダリについて映画を撮ろうと思ったんですか。
ハロン 実はこの映画の企画は、私たちのところに来た時にはすでに脚本まで出来ていました。ところがそれはあまり面白くなくて、結局私の夫(ジョン・C・ウォルシュ)が書き直したんです。私たちが興味を持ったのは、1970年代、つまりダリの晩年に、彼がニューヨークにいたということでした。
皆さんはダリというと1930年代のパリを思い浮かべるのではないかと思います。晩年、彼がニューヨークにいて、元気にパーティーをしていたというのはあまり知られていないと思いますから、そうしたアーティストの知られざる一面、その人に関連する意外な場所、というものを描くのは面白いんじゃないかと思ったんです。
池ノ辺 そうなんですね、私も初めて知りました。そもそもダリが70年代にまだ生きていたというのにも驚きましたけど(笑)。映画の中のニューヨークは、本当にポップカルチャー全盛期の華やかな雰囲気が出ていました。ファッションをはじめ世の中がすごく面白い時代でしたよね。
ハロン そうなんです。特に今回はハンナ・エドワーズという素晴らしい衣装デザイナーと組むことができ、きらびやかなダリの世界を一緒に創り上げてくれました。
それに、あの時代のパーティーの様子を再現するのはとても楽しい作業でした。自分がパーティーに参加できていたら面白いだろうなと(笑)。ちょうどアンディ・ウォーホルの周りに集まった人々の世界と似ていたと思います。それよりもう少しセレブな感じでしょうか。アーティスティックな人たちが中心で、モデルなどのファッション関係者、ミュージシャン、あるいはドラァグクィーンのようなトランスジェンダーな人々、さらにダウンタウンの人や、こうした世界にありがちなお金持ちの若者がいたり、本当にさまざまな人々が集まったパーティーです。