時は紀元前、中国春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍になるという夢を抱く戦災孤児の少年・信(しん)と、中華統一を目指す若き王・嬴政(えいせい)を壮大なスケールで描く漫画『キングダム』(原泰久/集英社)。長らく映像化は不可能といわれてきたが、そこに果敢に挑んだのが映画『キングダム』(2019)。公開されるや多くのファンを得て、その年の実写邦画作品の中で1位を獲得した。3年後には待望の続編『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)が公開され再び大ヒットを記録する。
そしてこの度、シリーズ3作目となる『キングダム 運命の炎』の公開が決まった。これまでのシリーズと同様に佐藤信介がメガホンをとり、原作者の原泰久が脚本に参加、<キングダムの魂>ともいえる「何故、中華統一を目指すのか」というテーマに挑戦する。山﨑賢人、吉沢亮ら、主要キャストは変わらず、物語初登場の紫夏(しか)は杏が演じる。亡き友と誓った夢に向かって突き進む少年・信。中華統一に挑む覚悟を問われる王・嬴政。彼の命を救い運命を変えた闇商人・紫夏。そして何かに導かれるようにして戦地へ舞い戻ってきた将軍・王騎(おうき)。それぞれの運命が交わる時、まだ見ぬ未来をかけた戦いが始まる。
予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『キングダム 運命の炎』のプロデューサー・松橋真三氏に、本作の見どころ、製作時のエピソード、映画への想いなどを伺いました。
“熱い手紙”で実現した宇多田ヒカルの主題歌
池ノ辺 『キングダム 運命の炎』拝見しました。素敵でした。エンディングで宇多田ヒカルさんの歌「Gold ~また逢う日まで~」が流れて、涙が止まらなくなりました。
松橋 ありがとうございます。
池ノ辺 今回の主題歌は、どういうふうに決まったんですか。
松橋 『キングダム 運命の炎』に関していうなら、私は“紫夏の物語”、そして“キングダムにとっての魂の物語”だと考えているんです。つまり、キングダムというのは、嬴政が夢見る「中華統一」がテーマとなっていますが、その嬴政という存在を形づくる上で一番重要なのが紫夏です。そのエピソードはこの映画では前半の方にあるのですが、全体を観終わった後にもう一度その気持ちを思い出してほしい、そういう構造にしたい、ということから、女性のアーティストにお願いしたいと思っていました。
池ノ辺 なるほど。
松橋 さらに言えば、『キングダム』のONE OK ROCKさんから始まり、次の『キングダム2』が Mr.Childrenさんと、世界で活躍する日本のトップアーティストの方に主題歌をお願いしてきましたので、今回はもう宇多田ヒカルさんしかないと思ってお願いしたんです。
池ノ辺 すぐに引き受けてくれたんですか?
松橋 実はプレゼンに行って、最初は断られたんです。ただ、どうしてもお願いしたいという想いで書いていった手紙は渡してきました。そうしたら後日連絡があって、そこまでの熱意なら、もう一度話を聞かせてほしいと言ってくれたんです。
池ノ辺 どういうことを書いたんですか。
松橋 主には先ほど言ったようなことです。そして、「施された恩は次のものへ送る」などのような、人間にとって幸せとはなにか、そういうことがこの作品の世界観の中心にあると。その大枠だけ理解してもらえば、あとはあまり映画のことは気にせず自由に作ってほしいと伝えました。映画のためということに縛られすぎるより、宇多田さんの個性や感性を大切にしてほしかったもので。
そうしたら、『キングダム』『キングダム2』を観てくださり、『キングダム3』のラッシュも渡したのでそれも観てくださった上で、書いてくれました。
池ノ辺 きっと作品に夢中になったんじゃないですか。
松橋 そうであったなら嬉しいですね。
池ノ辺 予告編やテレビスポットなどで宇多田さんの曲が流れるたびに、キングダムの世界の、運命とか宿命とか、そういうものが溢れてきて切なくて‥‥まんまとハマってしまいました(笑)。