Jun 07, 2023 interview

門脇麦×白石和彌プロデューサーが語る 今の時代にこそ必要だから形に残したいと思った『渇水』

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演じるとは「セリフを覚えて喋る」。そして役の一部に自分の一部をリンクさせる

池ノ辺 今回はプロデューサーとしての仕事をされたわけですが、実際どうでしたか。

白石 映画を作るということにおいては、本質的には変わらないです。ただ、監督をやっている時には、その作品に対してぎゅーっと入り込むようなところがあるのですが、プロデューサーはもう少し引いた位置で全体を見るということができます。そして人と人を繋げるということがプロデューサーの大きな仕事の1つなんだと思いました。

池ノ辺 監督とプロデューサー、どちらが好きですか。

白石 いや決められないです。どっちも楽しかったですから。でもずっと監督、演出をやっているので、髙橋さんが門脇さんや生田さんを演出しているのを見て、いいな、楽しそうだなとは思いました(笑)。

池ノ辺 その演出はちょっと違うんじゃないか、とは言わないんですか。

白石 もちろん、アイデアとしてこれはどうかな、というのはありますけど、最終的には監督に任せています。特にこの作品は、髙橋さんが10年にわたってあたためてきたものですからね。物語の理解の深さなど到底髙橋さんには及ばない。そういう意味では、人に任せられるというのもプロデューサーの大きな仕事かもしれません。

池ノ辺 じゃあ、次に監督をしたら今まで以上にすごいものが撮れそうじゃないですか。

白石 いや変わらないでしょ(笑)。

池ノ辺 ところで、監督作品の『死刑にいたる病』大ヒットでしたね。おめでとうございます。

白石 ありがとうございます。おかげさまで。

池ノ辺 特に若い人が観にいくというのが驚きました。

白石 何ですかね。あの気持ちの悪い阿部サダヲを観にいくんでしょうか(笑)。でも予告編の力は大事ですよね。

池ノ辺 それはやっぱり本編がいいからですよ。

門脇 いや、予告編は大事です。それで観に行くかどうかを決めますもん。

白石 予告編が面白くて、それで本編を観たら確かにこれはすごい、面白い、となるようなものがバズりやすい。その条件の1つなのかもしれないね。

池ノ辺 では最後に門脇さんに伺いたいのですが。演じることって何ですか。

門脇 私はセリフを覚えて喋ることだと思います。もちろん役作りとかいろいろありますが、そのキャラクターを自分の中で作る、というよりは、現場で、たとえばその日が暑いとか、寒いとか、相手に向き合った時に目が合ってとか、そういうことで気分が変わりますよね。そういうことをその場でいっぱい探して、そこでセリフを喋っていく中でできあがっていくようなイメージです。あとは役の一部と自分の一部をリンクさせる感じなんじゃないかなと思います。

池ノ辺 リンクするということは、合う合わないがあるんですか。

門脇 たくさん合うところがなくても、少しでもリンクできる場所を探す。もし、本当にリンクできる場所がこの役にはないかもと思ったら、たぶんお断りすると思います。だって、自分じゃなくて他の人がやった方がいいんじゃないかと思いますから。

池ノ辺 なるほど。本日は忙しい中、お2人ともありがとうございました。次も楽しみにしています。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
撮影 / 岡本英理

プロフィール
門脇 麦(かどわき むぎ)

女優

1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年、ドラマでデビュー。『愛の渦』(14)、『太陽』(16)、『二重生活』(16)、『チワワちゃん』(19)、『さよならくちびる』(19)、『あのこは貴族』(21)、『天間荘の三姉妹』(22)など出演作多数。白石和彌監督作品には『サニー/32』(18)、『止められるか、俺たちを』(18)では第61回ブルーリボン賞主演女優賞受賞。2023年放送のドラマ「リバーサルオーケストラ」(NTV)、「ながたんと青と -いちかの料理帖-」(WOWOW)で主演を務める。

白石 和彌(しらいし かずや)

プロデューサー / 監督

1974年、北海道出身。若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として行定勲、犬童一心監督などの作品に参加。 『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10) で長編デビュー。 『凶悪』(13) で第37回日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞するなど脚光を浴びる。『日本で一番悪い奴ら』 (16)、『牝猫たち』(17)、『彼女がその名を知らない鳥たち』 (17)、『サニー/32 』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』(いずれも18) 、 『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』 (いずれも19)、『死刑にいたる病』(22)など監督作で国内外の映画祭、映画賞を席巻。『孤狼の血 LEVEL2』(21)では第45回日本アカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ最多13部門受賞。現在、「仮面ライダーBLACKSUN」がAmazon Prime Videoにて全世界配信中。日本映画界を牽引する映画監督のひとり。

作品情報
映画『渇水』

日照りが続くある夏、市の水道局に勤める岩切俊作は、水道料金を滞納している家庭や店舗を訪ね、水道を停めて回る日々を送っていた。県内全域で給水制限が発令される中、岩切は2人きりで家に取り残された小学生の姉妹と出会う。蒸発した父、帰ってこない母。電気とガスはすでに停止していた。子供たちの最後のライフラインである水までも停めてしまっていいのか?岩切は親との関係に悩んだ子供時代や、妻と一緒に実家に帰ったまま戻ってこない幼い息子を姉妹に重ねて葛藤しつつも、規則に従って停水を執り行う‥‥。

監督:髙橋正弥

企画プロデュース:白石和彌

原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)

出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂、宮藤官九郎、池田成志、尾野真千子

配給:KADOKAWA

©「渇水」製作委員会

公開中

公式サイト https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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