水の曖昧さの中に、微かに浮かび上がる救い、あるいは希望
池ノ辺 門脇麦さんには、プロデューサーとして声をかけられたんですよね。
白石 そうです。
池ノ辺 門脇さんは最初、脚本を読まれた時どう思われましたか。
門脇 確かに明るいお話ではないですが、でもいい作品になるだろうなと思いました。映画はエンターテインメントですけど、でも残しておくべき映画というのは絶対あると思って、これはそういう作品になるんじゃないかと思いましたね。
池ノ辺 白石プロデューサーとは久しぶりにご一緒したんですよね。
白石 そうですね。監督された『止められるか、俺たちを』(2018) 以来かな。
門脇 でも今回は白石プロデューサーは現場にいらっしゃらなかったんですよね。
白石 いや、僕は行く気満々だったんです、本当に、嘘偽りなく(笑)。監督になってからは、人が演出しているところに、何か差し入れを持って行ったりということはあっても仕事で毎日行くことってまずないじゃないですか。これまでずっと監督として走ってきて、ちょっと違う関わり方もいいなと思っていたら、こういう機会ができたので行くつもりになっていたら、クランクイン直前に僕がコロナに罹ってしまったんです。
池ノ辺 そうだったんですか。
白石 結局僕が最初に行けたのは滝のシーンで。そのころは(門脇)麦ちゃんのシーンがなかったんですよね。
門脇 私はいなかった時ですね。
白石 だから見たいシーンが全然見られないという感じではありました。でも事前に髙橋監督を交えて皆で一緒に話をさせてもらう機会はありました。
池ノ辺 子どもたちはどんな感じでしたか。お母さん役としては。
門脇 実は、私はほぼ喋っていないんです。距離感があった方がいいかなと思って、お昼を食べる時にも別の部屋で食べていたくらいです。
白石 距離感の取り方が難しかったよね。
門脇 私に対してちょっと緊張していて欲しかったんです。ですからあまり近づきすぎるのは良くないかなと思って、静かに遠くから見守っていました。
池ノ辺 確かにそう聞くと納得しました。お母さんが離れている分、逆にあの2人が力を合わせて生きていくというのがすごく伝わってきました。
門脇 現場でも、撮影中ずっと2人でいました。本当に日に日に本当の姉妹みたいな関係になっていくのがわかりました。
池ノ辺 生田(斗真)くんもすごくよかったですね。プロデューサーとしてはどう思われましたか。
白石 すごくよかったし、髙橋監督が羨ましいなと思いました(笑)。生田さんてエンタメど真ん中の仕事も当然たくさんされていますけど、どちらかというとアート系の作品も出たりとか、すごく振り幅の広い俳優さんだというのを今回改めて感じましたね。
門脇 でもエンタメど真ん中の方がああいう役をやるというのがまたいいですよね。
池ノ辺 そうですね。共演されてどうでしたか。
門脇 前回共演した時には、生田さんが女性の役だったんで、今回とはあまりにも違いすぎて、「私、この人と共演したことあったっけ? 初めてじゃない?」と思ったくらいです(笑)。
白石 それは振り幅広いな(笑)
池ノ辺 演じる時には全然違う人になっているんですね。
門脇 全然違います。目も顔も全然違いますもん。
池ノ辺 目がちょっと落ち窪んでいる感じとか、ああいうのは意識して作っているんでしょうか。
白石 そういう意味での意識というより、この作品でこういう役だからと役に入っていった結果として、ああなっているんじゃないかと思います。
池ノ辺 今回の作品は「水」がテーマとなっていますが、監督にとって、この作品での「水」はどういう存在ですか。
白石 曖昧さだと思う。水って形があるようでない、命の源でもあるけれど命を奪うものでもある。人間の命も水そのものであるという言い方もできる。そんな曖昧さをどう表現するかというのは、この映画の1つの重要なテーマになっていると僕は思います。
水道の停水執行をするのが主人公の岩切の仕事なんだけれど、それは誰かにとっては厳しい選択です。でも一方で別の形の岩切の行動が、もしかしたらあの姉妹を生かすのかもしれない。人間は水というものを如何様にもできるのかもしれないけれど、そこに収まらないものももちろんあるわけですよね。
池ノ辺 確かに、電気代って払わないとすぐ止められますけど、水道はすぐにどうこうはないですよね。
白石 僕も若くて貧乏だった頃、電気は何度か止められたことがあったけれど、水を止められたことはないです。やはり命に直結するからというのがあるんでしょうね。
池ノ辺 門脇さんにとって「水」とは?
門脇 すごく難しい質問ですね(笑)。
池ノ辺 今回のお母さん役では水の匂いをよく嗅いでましたよね。
門脇 そうなんです。何だろうと私も思っていました。これは正解かどうかは全くわかりませんが、水って流れますよね。流れて流されて、何もない人という意味で表現しているのかなと思っていました。自分の出て行った旦那さんのことを「水の匂いがする」というセリフもあるんです。
池ノ辺 奥が深いですね。