Aug 24, 2022 interview

犬童一心監督が語る 『ハウ』でのベックの存在感は自然なリアクションから生みだされた

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予告編まで視野に入れた撮影ができたら

犬童 以前にバカ・ザ・バッカで作ってもらった『ジョゼと虎と魚たち』(2003)の予告編の完成度に驚いて、予告編は自分で作らないのがいいんだな、というか、絶対に作りたくないとつくづく思ったんです。

池ノ辺 そのために私たちがいますから(笑)。

犬童 時々思うんですけど、宣伝部の予算で、1日だけでもいいから予告編に使えそうなカットを撮る日があるといいなと。代わりに使えそうなカットがあると、撮影中はわざわざ撮るのは止めたい、お金もないし、これでいいよとなってしまいがちです。でもそれがどのくらい予告編で使えるかなと、僕の頭の中では疑問に思うところもある。これでは予告編にはちょっと弱いんじゃないかなとかね。

犬童一心監督が語る 『ハウ』でのベックの存在感は自然なリアクションから生みだされた

池ノ辺 そこまで考えてくれる監督はなかなかいらっしゃらないですから、それはとても嬉しいことです。

犬童 ちょっと極端ですが、僕は、予告編がよくて観客が入ってくれればそれでいい、というところもあって。というのも、今は、予告編が果たす役割というのが昔より重要になってきていると思うんですよ。映画館に来て予告編を見て次に観る映画を決めるということが、意外と多いですよね。だとしたら、映像として本当にしっかり作らなければいけないと思います。

池ノ辺 確かに、予告編というのはその映画の中で最初に世に出すものですから、責任は重大です。ただ、やはり素晴らしい本編があってこその予告編だとは思います。

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映画は世界を見る窓

池ノ辺 監督はどういった経緯で映画監督になったんですか?

犬童 僕は17歳の時に映画を撮り始めたんです。最初は、映画ってどうやってできているのかなという疑問から始まって、8ミリで撮ってみたら意外に本気になってずっと撮ることになりました。ただ、大学を卒業する時には一度映画をやめて広告業界に入ったのですが、市川準監督に引き戻されたんです。

池ノ辺 映画を撮れと言われたんですか。

犬童 これは本当に偶然の話なんです。僕はCMの世界にいながらも自主映画は撮っていたのですが、それを一緒にCMを作っていたプランナー仲間に見せたら面白いというのでビデオテープをあげたんですよ。そのテープ、VHSを持って彼が渋谷を歩いていたら、市川さんに出会って、「これ、今、見てきたんだけどすごく面白かったんですよ」と市川さんにテープを渡したそうなんです。それで市川さんから電話が来て、東京で公開しろと言われて、その批評を「キネマ旬報」に書いてくれたんです。

さらにその批評を見て日本映画監督協会の新人賞の選考委員やサンダンス映画祭の選考委員も映画を観せてくれとやってきて、結局その作品『二人が喋ってる。』(1995)が、「日本映画監督協会」の新人賞と「サンダンス・フィルム・フェスティバル・イン・トーキョー‘96」のグランプリにもなったんです。そこから市川さんに『大阪物語』(1999)のシナリオを頼まれ、それを読んだ別の人からのちに『黄泉がえり』(2003)のシナリオを頼まれたり、そんなふうにして今までつながってきました。

犬童一心監督が語る 『ハウ』でのベックの存在感は自然なリアクションから生みだされた

池ノ辺 いい話じゃないですか!さて、最後の質問です。監督にとって映画とは何ですか?

犬童 一つは「何だろう?」という対象ですね。17歳の初めて映画を撮った時に、「映画ってどうやってできているのかな」という不思議を解き明かしたいような思いがずっとあります。

それより以前に、小学生の頃から映画が好きで観ていたということがあるのですが、そうすると、そこを通して世界を見る、あるいは考えるときにも、そこを通して見ていることを基盤に考えるというような、フレームというか窓のようなものが、自分にとっての映画だと思います。

池ノ辺 フレームや窓っていう表現は面白いですね。

インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 曽我美芽

プロフィール
犬童 一心(いぬどう いっしん)

監督・脚本

1960年6月24日生まれ。東京都出身。長編映画監督デビューである『二人が喋ってる。』(97)で、サンダンスフィルムフェスティバル in 東京でグランプリ、日本映画監督協会新人賞を受賞。その後も『眉山 -びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(12)で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。主な監督作に、『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』、『いぬのえいが』(05)、『グーグーだって猫である』(08)、『猫は抱くもの』(18)、『最高の人生の見つけ方』(19)『名付けようのない踊り』(22)などがある。

作品情報
犬童一心監督が語る 『ハウ』でのベックの存在感は自然なリアクションから生みだされた
映画『ハウ』

婚約者にあっさりフラれ、人生最悪な時を迎えていた市役所職員・赤西民夫。上司からの勧めで、飼い主に捨てられて保護犬になってしまった真っ白な大型犬を飼うことになってしまう。犬はワンと鳴けず「ハウッ」というかすれた声しか出せない。とびっきり人懐っこいこの犬を、民夫は“ハウ”と名付け、1人と1匹の優しくて温かい日々が始まった。いつしかかけがえのない存在となっていったハウと民夫の最高に幸せな時間はずっと続くと思っていたのだが‥‥そんな時、突然ハウが姿を消す。果たして、ハウと民夫はもう一度再会することができるのか。そこには、優しすぎる結末が待っていた。

監督:犬童一心

原作:「ハウ」斉藤ひろし(朝日文庫)

出演:田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子

配給:東映

©2022「ハウ」製作委員会

公開中

公式サイト haw-movie.com

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「シェイプ・オブ・ウォーター」「ノマドランド」ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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