中島健人との会話が映画を作り出していく
池ノ辺 中島健人さんと松本穂香さんには、どんな演出をなさっていたんですか? と言うのも、2人の演技が映画の中でどんどん目に見えて変わっていったような気がしたんです。
深川 直接的な言葉をあまり使わずに、2人が頭の中で導き出した答えが僕の答えになるように、長い期間をかけて話しながら、一緒にゆっくりと撮影を進めることが出来ました。それはとても良い経験だったなと思います。
池ノ辺 どんなところでその変化が感じられましたか?
深川 客観的に見て一番変わったなと思ったのは、晴人を演じた中島健人くんは、すごくよく考えるんですよね。考えて考えて言葉にする表現力のある人なんです。だから自分の感じたことを、僕に確かめたいというようなところがあって、撮影現場に入る前から、「僕はこんなふうに思うんですけど」って、よく喋ってくれた。それに僕がそれに返していくんですけど、撮影が始まった最初の1週間ぐらいは、僕が1カット撮り終わるごとに、その都度、彼のところに行って話をしていました。その話をした言葉で得たものを、彼が考えて演じていくっていうようなことを続けていたんです。
池ノ辺 だから、あんなに繊細な演技が生まれたんですね。撮影が終わるまで、ずっと1カット撮り終わるたびに話していたんですか?
深川 それが撮影開始2週間目ぐらいから、もう彼があまり喋らなくなっていくんです。つまり、僕に質問しなくなってきた。
池ノ辺 少しずつ監督と中島健人さんとの距離感が変わっていったんですね。
深川 それで撮影が始まってから1か月半とか2か月になった頃には、もうあまり言葉を交わさなくなっていくんです。最後の方には、「おはようございます」から「おつかれさま」まで、ほとんど喋らない。それは中島健人くんも松本穂香さんもそうです。1日の間で二言か三言ぐらいしか喋らなくなった。
池ノ辺 役になりきったら感情は切なすぎる。言葉も無くなっていきますね。
深川 演じるというより、役が乗り移ってシンクロしていったということを経験していっていたのかなと思いました。そういう撮影現場での変化がありましたね。
池ノ辺 松本穂香さんが演じた美咲は、相当の覚悟を持って演じないと出来ない難病に侵される役ですよね。後半は演技力以外の映画の技術も必要になりますし。
深川 そうですね。僕も彼女があの役を演じる上で、あそこまで出来るのかなという思いもあったんです。CGの技術もそこまで可能なのかなとちょっと思っていました。CGを使った作品はあまりやってこなかったので、正直あまり信用してなかったんです。
池ノ辺 もしかして、松本穂香さんが上手くいかなかったら、本当の年齢の人に演じてもらうつもりでした?
深川 そこが監督の狡さというか、僕の狡さなんですが(笑)、ちゃんとボディダブルの人の芝居を撮っておいて使えるようにしておいたんですけど、結局、そのテイクは使わずに、松本穂香さんだけで押して行くことになりました。そこまで出来るようになるとは、僕も予想外だったんですけど。
池ノ辺 松本さんは難病で桜のように散っていく姿を上手く表現されていて、素晴らしかったですね。若い二人の演技にどれだけ泣いたか‥‥。この作品は若い人だけでなく、歳を重ねた人が見ても良い映画だと思います。私も監督と同様に2人の人生を見守ってました、号泣です。