映画に対してチャレンジャーでありたい
池ノ辺 齋藤さんのプロデュース術とも通じるところはありますか?
齋藤 僕は映画の中での自分の役割を、ようやく20年ぐらい前に見つけて、それを今もやってますけど、たぶん20年前に比べると、自分の役割は少しずつ変わってきていると思います。今回の作品は、宣伝プロデューサーにも予告編のディレクターにも、やりたいことをやっていただくということが、この映画のクリエイティブのひとつだと思っているので、基本はおまかせでした。全部を自分でやれるわけじゃないし、やったほうがいいわけじゃないですから。やっぱり最適な人が映画のために頑張ってくれるのが一番いいんですよ。
池ノ辺 音楽に対しても同じスタンスですよね。だって特報や予告の音楽をダビングをする時って、レーベルの人が来てチェックするぐらいはあるんですが、今回は音楽監督、作曲家、エンジニアの方まで来てくれて、予告に合わせた音楽をその場で作ったんですよね。
齋藤 この映画は、さまざまな歌と音楽が主人公の成長に不可欠だったので、それをどう作ればいいかということは、『未来のミライ』を公開した年の年末ぐらいから話し合っていたんです。結局、岩崎太整さんという音楽監督にたどり着くまで2年弱かかっているんですよ。
池ノ辺 最近じゃないですか?
齋藤 そう。去年10月ぐらいに決まりましたから。それで太整さんがたくさんの才能を集めて、みんなで音楽と歌を作ろうっていうふうに言ってくれて、今みたいな形になったので、それはやっぱり予告編でもこだわるというか、予告の音楽もきちんと伝えたいところがあったんだと思います。その結果が、さっき話に出た歌だけで構成された予告になって出来上がったんじゃないかと思います。
池ノ辺 改めて『竜とそばかすの姫』について、メッセージをお願いできますか。
齋藤 自分は何者なのかということを見定めて、葛藤を抱えながらもチャレンジをして、バイタリティーをもって一歩踏み出す。それって、すごく大きな一歩じゃないですか。未来を肯定的に捉えて、苦しいかもしれないけれど、みんなで前に進んでいこうぜっていうことを描いている作品です。
池ノ辺 では最後に、齋藤さんにとって映画って何ですか?
齋藤 自分にとって映画は何かって、ちょうど考えていたところなんです。僕は映画というものを一言でこういうものですって表現できないですけど、映画に対して自分がどういう態度でいるべきなのかってことで言うと“映画に対して、自分はずっとチャレンジャーでいたい”と思っています。
インタビュー / 池ノ辺直子
構成・文 / 吉田伊知郎
撮影 / 吉田周平
株式会社地図(スタジオ地図)/ 代表取締役社長・プロデューサー
米国留学卒業後、1999年にアニメーション制作会社『MADHOUSE』入社。丸山正雄に師事。MADHOUSE時代の主なプロデュース作品としては細田守監督『時をかける少女』『サマーウォーズ』、川尻善昭監督『HIGHLANDER-Search of Vengeance-』。りんたろう、杉井ギサブロー、平田敏夫、小池健、浅香守生監督作品などにも参加し、海外との共同製作作品や実写とのコラボレート作品なども多く手がけた。2011年、細田守と共にアニメーション映画製作会社『スタジオ地図』を設立し、代表取締役に就任。その後『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』を企画・製作し、細田監督作品のプロデュースに専念。2019年からアカデミー会員。
スタジオ地図 https://studiochizu.jp/
もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・すずは、母の死をきっかけに何よりも大好きだった歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。そこでは、自分の分身<As(アズ)>を作りまったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けた<As>としては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。
原作・脚本・監督:細田守
音楽監督/音楽:岩崎太整
出演:中村佳穂、成田 凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世、森川智之、宮野真守、島本須美、役所広司 / 石黒 賢 ermhoi HANA / 佐藤健
企画・制作:スタジオ地図
配給:東宝
Ⓒ 2021 スタジオ地図
7月16日(金) 全国公開