集大成は新たなチャレンジ
池ノ辺 今回の『竜とそばかすの姫』は、細田監督の集大成だと思ったし、未来への肯定をすごく感じました。
齋藤 集大成ということで言うと、例えに出すのは不遜ですけど、作家って黒澤明監督もそうですが、ぐるっと一周回ってまた同じモチーフとかテーマにチャレンジすることはあると思うんですよ。でもそれは縮小再生産ではなくて、そこに新しいチャレンジというものが加わって出来るものだと思うんですよね。今回も積み上げてきたものを全部結集した上で、やっぱり何か新しい要素を入れたい。それで今回は、僕らの考えるクリエイティブやプロデュースを担ってくれる人を大きく変えてみようと。
池ノ辺 今回、予告編のディレクターやポスターのデザイナー、宣伝プロデューサーも初めて組んだ方なんですよね?
齋藤 そうなんです。もちろん、これまでの宣伝プロデューサーも、ものすごく優秀で才能溢れる方だったし、デザイナーも編集マンもみんな才能ある人たちだったんだけれど、僕と監督は9歳の差があるんですが、『時をかける少女』を始めた頃に20代後半だった僕も、今では40代半ばです。今作では、感覚も体力も時代を見る目も含めてもっと若い人たちの感覚と時代を見る眼差しを新たに入れるべきだろうということを、監督と決めていたんです。
池ノ辺 そうだったんですね。最初に作った特報映像も、まだ本編の映像が何も完成していなくて、コンテを元に作ったとか。
齋藤 アニメーションって、最後に一気に出来上がるんです。先行して絵を作ることができない。だから、かなり緻密に計画しておかないといけないんです。平均するとだいたい公開前年の10月ぐらいにコンテが上がってきて、それまでにタイトルを決めて、宣伝プロデューサーを決める。だから、コンテが上がったら一気に宣伝に入るぞという体制を作っておいて、コンテからこの画を使いたいというものを宣伝プロデューサーに100カットぐらい出しておいてもらう。それを宣伝スケジュールに合わせて作ることによって現場もさらに加速して、いいペースになっていくみたいなところもあるんです。
ただ、コロナ禍の中で映画を作るのは僕らも初めての体験だったこともあって、ものすごくいろいろな困難がありました。特報出しの段階で、十二分な画を揃えられなかったこともあったので、相当苦労をかけたなと思っているんです。
池ノ辺 でも、「このカットは最後の頃に出来上がるものだから特報や予告に入れるのは無理」とか、「違うカットに変えてくれますか?」って言われる事がよくあるんですが、この作品に関しては「スタジオ地図の誰一人、無理だって言わなかった」と宣伝部の方が言っていたそうですね。妥協をしないものづくりの姿勢から映画ができたと思いました。しかも、次の予告編は歌だけで見せようとか、監督は考えてくる。
齋藤 今回、映画の大きな売りとしても、監督がチャレンジしたかったところとしても、やっぱり歌と音楽があるんです。それを予告で見せたかったということですね。
池ノ辺 あの歌も、予告用に歌ったときと本編で歌っときではちょっと違うんですよね。
齋藤 そうです。しかも予告を作ったときって、アフレコの前なんです。主演の中村佳穂さんはシナリオを読みこんだ上で歌っていると思うんですけど、アフレコを通して他の役者さんと一緒に掛け合いをして”ベル”という人物が作り上げられた後で歌うと、やっぱり表現の仕方とか、キャラクターに対する理解や魂の呼応の仕方がまた変わっていったんだと思うんですよね。
池ノ辺 映画を見たときに、なぜ彼女が起用されて”ベル”になったっていうことが、すごくわかりました。この映画はキャストが全員素晴らしかった。
齋藤 先日も監督が言っていましたが、あのキャストがいなかったらこの作品は成り立たないと思うし、この作品を大きく持ち上げてくれたと思いますよ。