Feb 12, 2020 interview

伊藤さとりが語る、人と心を結ぶ映画の力

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震災で知った映画の力

―― 仕事を続けてきた上で、忘れられない出来事はありますか?

来年で東日本大震災から10年になるんですよね、あのときって映画が止まったの憶えてます?

―― テレビでも映画館でも宣伝は何もやっていませんでしたね。

ラジオだけは映画を通じてエンターテインメントを残そうとしていたので、映画番組も続きましたが、舞台挨拶は震災後、休業になったんですよ。

――お客さんが来ないから?

不謹慎かもしれないからって映画会社が止めたんです。私は3月12日に『塔の上のラプンツェル』の司会をするはずだったんですけど、出来なくなって。3月12日に初日を迎えるはずだった映画は、1週か2週遅れで舞台挨拶をやって、それ以降は約2か月間、司会が休業状態になったんです、映画会社の意向で。

―― じゃあ、伊藤さんも仕事がなくなった?

そうです。私とかスタイリストの友達は、舞台挨拶が無くなるとヒマになるんです。それで部屋に集まって、「私たちの仕事って、こういうときには何の役にも立たないかも」って話をしてたんですよね。そんなときに東宝から『GANTZ PERFECT ANSWER』の舞台挨拶を仙台でやろうと思うと言われたんです。そのときはどこも映画の舞台挨拶をやっていなくて、どこが最初にやるのかって状況だったんですけど、東宝の人が舞台挨拶を再開するなら、最初に仙台へ応援に行こうと。

―― キャストのみなさんも一緒に仙台へ?

二宮和也さん、吉高由里子さん、松山ケンイチさん、佐藤信介監督と一緒に。東京から新幹線で移動したんですが、これは宣伝活動ではないからってことで、事前の告知はしなかったんです。仙台駅からはワゴンバスに乗って、仙台が今どういう状況かを見せられたんですよ。崩壊した家や道を目にした後で、着いたのがショッピングモールの映画館なんですけど、半分崩壊してるんです。どうやってお客さんを呼ぶのかなと思ったら、ショッピングモールのアナウンスで今から舞台挨拶やりますって伝えたんです。だから、偶然チケットを買っていた人はラッキー。サプライズでやったんです。

―― みなさん喜んだでしょうね。

もうね、あの光景は今でも忘れられない。自分の娘の写真を持ったお母さんが、ニコニコしながら客席に座ってるんですよ。私たちは神妙な顔で行くじゃないですか。そうしたら向こうは満開の笑顔で「来てくれてありがとう」って迎えてくれて。このときに、映画で人を元気にするという上からの考えを捨て、エンターテインメントって、こうやって、人と繋がるきっかけを作ったり、時に人の心を幸せにするんだって気づいた瞬間でしたね。

―― 二宮和也さんの素敵なエピソードがあるんですってね?

そうなんです。「さとりさんはツイッターやってるんだよね?だったらこの光景(モールの駐車場に集まってこちらに手を振るファンの人たちの姿)を撮ってアップして」と言われたんです。きっと、自分もちゃんとみんなを見てるよ、手を振ってくれたことに感謝がいっぱいだということを伝えたかったんです。

―― そういう経験をした後は、司会としての立ち方に変化はありましたか?

すごく変わりましたね。ただ司会で喋るんじゃなくて、役者さんや監督の伝えたいことをしっかり言ってもらえるように誘導できる存在、船でいうとコンパスの役割りでいたいと思うようになりましたね。

―― あれから10年が経とうとしていますが、あのとき福島第一原発で何が起きていたのかを描いた映画が公開されますね。佐藤浩市さん、渡辺謙さんの『Fukushima 50』。この映画の舞台挨拶でも伊藤さんはMCをなさっていましたね。特別な思いがあったんじゃないですか?

そうなんです。佐藤浩市さんには、以前、原田芳雄さんのお通夜で会った時に、「伊藤ちゃん、俺たちみたいなのが、これから日本映画を背負ってく存在にならなきゃいけないんだよ」と言われていたし、渡辺謙さんは『硫黄島からの手紙』や様々な作品でご一緒した時、謙さんが裏で「映画で社会と繋がることが日本映画でも増えて欲しい」と話していたこともあり。そんなお2人と、あの東日本大震災の原発での実話がベースになった映画でしたから。ワールドプレミアの時は、お二人から事前に「打ち合わせしたい」と言われ、舞台挨拶の内容を、重くなり過ぎず、かつ、しっかり思いを伝えるステージにしたい、と伝えられ、一緒に構成も考えて下さったんです。映画や人へ誠実な先輩達です。

――何気なく見ている舞台挨拶も、伊藤さんが俳優さんたちと作り上げていっているものなんですね。

私は長年やっているから、俳優、監督さん達も知り合いとして、気さくに接してくれることも多く、感謝しています。だから、映画に真摯に向き合っていたり、観客を楽しませたいと思う俳優さんほど、アイデアを投げかけてくれたりもします。そんな時は、宣伝の人達と話し合って、台本も変えたりして、結果、良い舞台挨拶になるんですよね。