Sep 18, 2019 interview

オダギリジョーが語る、『ある船頭の話』映像美の秘密

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オダギリジョー監督が10年前に海外での経験を基に脚本を執筆し、満を持して長編映画の初監督に挑戦した『ある船頭の話』。映画大好きな業界の人たちと語り合う 「映画は愛よ!」の池ノ辺直子が、 オダギリジョー監督に、 『ある船頭の話』の制作をめぐるエピソード、巨匠クリストファー・ドイルとの出会いや撮影秘話などをうかがいました。

――ヴェネツィア国際映画祭からお帰りになったばかりですね。いかがでしたか?

素晴らしい反応をいただきました。自分が作った作品にスタンディングオベーションで熱く応えてもらえることに恐縮しましたね。ありがたいし、感動的でしたが、恐縮の方が勝ってしまったという感じでした。

――どうして? 『ある船頭の話』は素晴らしい作品なんだから自信を持っていいじゃないですか。

ずっと手を叩いていただいて、このまま誰も止められない空気だったので、もうそろそろ結構ですよって気持ちになってきて(笑)。急いでQ&Aに行った感じでしたね。

――日本映画でオリジナル企画の映画を作るのって、今、すごく難しいですよね? それを実現させたんだから、スタンディングオベーションの拍手の中でも胸をはっていてよかったんですよ。

本当に嬉しいことですよ。オリジナルで作ったものをヴェネツィア国際映画祭っていう晴れの場でお披露目させてもらったんですから。上映した次の日に街を歩いていたときも、「昨日、映画観たよ」と声をかけてもらったりして。

――私は初号で見せてもらったときから、これはカンヌよりヴェネツィアへ行くわって言ってました。

そうなんですか? 初号の後、僕の後ろを歩いていた女性が声を大にして「思ったより、良かったじゃない!」って言ってたのを憶えてます。

――アハハ、ごめんなさい。それ私です(笑)。正直言うと、予告編を作らせていただくのを前提に観たせいもあって、普通の映画かなと思って観始めたんです。そうしたらものすごかった! 役者さんも素晴らしいし、映像美には本当にビックリしました。クリストファー・ドイルさんが撮影をやってくれたのは、どうしてなんですか?

前に一緒に仕事をしたとき(『宵闇心中』)に、「お前が監督するときは俺がカメラをやってやるから」って言ってくれたんですよ。それを鵜呑みにして、脚本を送ったんですよね。そうしたらすごく気に入ってくれて、「スケジュールを空けるから、いつ撮りたいかを直ぐ教えてくれ」と言われて、あっという間に話がまとまりました。

――この作品の構想期間は10年ということですが、クリスとはどれくらい一緒に?

製作に入ってからは2年ぐらいなので、クリスともそれぐらいですね。脚本は作っていましたが、その前の8年は頭の隅にもなかった状態です。

――この作品は、映像の色合いが日本人の作るものじゃないって思ったので海外で編集後のカラーグレーディング(色付け)作業をしたのかと思っていました。

作業は全部、東映でやったんですよ。素晴らしいスタッフでした。最初の色付けは撮影のクリス(クリストファー・ドイル)がやったんです。クリスは僕のことをボスと呼ぶんですが(笑)、「ボス、この色の方向でいいか?」とか「どうしたい?」と訊いてくれるので、一緒に相談しながら色を決めていきました。クリスが中心となって引っ張っていってくれたので、そういう色を作れたんだと思います。

――この映画に出演しているベテランの俳優さんたちが、みなさんオダギリさんのことが大好きなのが伝わってくるんですよ。

ありがたいですね。橋爪功さんにしても永瀬正敏さんにしても先輩たちにかわいがっていただいていますね。

――役者でありながら、役者の方たちに演出するわけじゃないですか。それはどうやっているんですか。

それはもう本当にやりやすいんですよ、同業者だから。映画監督が役者に演出するのは、たぶん、すごく難しいことだと思うんですよ。言葉を選ばなきゃいけないし、表現を選ばなきゃいけないし。でも、同業者だと簡単なんです。

――それは、ひとこと言うだけですぐに通じるからですか?

そうですね。例えば、プロ野球選手でも選手同士で話をする方が早いじゃないですか。同じ言葉が使えるし、同じ感覚で話せる。そこは俳優が演出する場合でも大きいと思いますね。たぶん演者の方も伝わりやすかったと思うので、一番大きな利点だったんじゃないですかね。

――今後も監督としても長く続けていけるんじゃないですか?

いやあ、どうですかね。もちろん、やりたくないということではありませんが、直ぐにやりたいかと言われると言葉に詰まりますよね。まず、僕は役者なので職業が違うじゃないですか。お願いされたからと言って、なんでもかんでも撮れるということじゃないと思ってますし、やっぱり自分が撮らせてもらうからにはオリジナルにこだわってやるべきだと思うので。それをやるためには時間がかかるでしょうね。

――でも、良い作品が出来てヴェネツィアでも上映されて、監督として良いスタートを切ることが出来たわけですから、これからも楽しみにしています。最後にこれからご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。

劇場で観ないとこの作品の良さは絶対伝わらないので、ぜひ劇場で観ていただきたいと思います。

インタビュー/池ノ辺直子
構成・文/吉田伊知郎
撮影/江藤海彦

プロフィール
■オダギリジョー

映画監督

1976年2月16日生まれ。アメリカと日本でメソッド演技法を学び、03年、第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『アカルイミライ』(黒沢清監督)で映画初主演。その後、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞を始め国内外の数々の賞を受賞し、海外作品にも多く参加。18年は『宵闇真珠』(ジェニー・シュン/クリストファー・ドイル監督)が公開。待機作に『サタデー・フィクション』(ロウ・イエ監督)、『人間、空間、時間、そして人間』(キム・ギドク監督)。これまでの監督作は『バナナの皮』、『Fairy in Method』(共に自主制作短編)、第38回ロッテルダム国際映画祭招待作品『さくらな人たち』(09/中編)。今年秋には『時効警察』の新シリーズ『時効警察はじめました』が12年振りに復活。

作品情報
『ある船頭の話』

明治後期から大正を思わせる時代、美しい緑豊かな山あいに流れる、とある河。船頭のトイチは、川辺の質素な小屋に一人で住み、村と町を繋ぐための河の渡しを生業にしていた。様々な事情を持つ人たちがトイチの舟に乗ってくる。日々、黙々と舟を漕ぎ、慎ましく静かな生活を送っていた。そんな折、トイチの舟に何かがぶつかる。流れて来たのは一人の少女だった。少女はどこからやってきたのか?どんな過去を背負っているのか?少女の存在はトイチの孤独を埋めてくれてはいるが、その一方でトイチの人生を大きく狂わせてゆくことになる……。


脚本・監督:オダギリジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎、伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優、笹野高史、 草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ
新宿武蔵野館ほかにて公開中

©2019「ある船頭の話」製作委員会
公式サイト:http://aru-sendou.jp

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「ドリーム」「シェイプ・オブ・ウォーター」「スリー・ビルボード」 ほか1100本以上。 最新作は「ベル・カント とらわれのマリア」「ジョジョ・ラビット」。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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