- 池ノ辺
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そこで今、私が思っているのは、宣伝費にお金をかけていろんなところに宣伝するよりも、その映画を最も楽しむであろう層に絞って届けることだなと。
- 西澤
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映画興行にとっても、面白い時代になっていると思いますよ。
大きな作品だと、不特定多数のいろんな層のお客様を狙っていかなければいけないから、多分、いろんな戦略はあるかもしれないんですけど、僕らがやるアートハウスの映画って、そこまでオールターゲットを狙っているわけではない、むしろ、ちょっと狭い層を狙っている。
そこが広がってくれればいいんで、予告編もある程度、全部わかりやすいものじゃなくてもいいかなという時代になってきている。
だって、調べようと思えば、今の時代、映画の評価なんて簡単に調べられちゃいますよね。
そもそも、予告編作るって大変ですよね、日本版の予告を作っても、熱心なファンだったら、海外のオリジナルの予告編を簡単にチェックできるじゃないですか。
比較されて、批判されることとかあると、寂しくないですか?
- 池ノ辺
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そんなの、ネットにいっぱい書かれてますよ。
あっちの方が良かったですとか。
それでメゲてたら仕事にならない。
ただ、3分くらいの長い予告編を見せると、「よくわかった」と肯定的な意見も書いてもらえますから、前向いて作っていくしかない。
その意味で、再び、『スウィート17モンスター』に戻るんですけど、あれは、GEM Partnersの星野さんのアイディアで、スマホ用の広告をたくさん作ったんです。
音を消していても、内容がわかる予告編。
タイトルで説明したり、1対1のサイズを生かしたり、誰もがそれを見て、「おー、面白そうだ」と言ってまずは本予告編を見に行ってもらえるようなものを。
何人かのイラストレーターさんが描く『スウィート17モンスター』の世界も面白かったですね。
- 西澤
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そうそう。
いろいろアイディアを出してもらいました。
- 池ノ辺
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西澤さんだって、いろいろチャレンジしているじゃないですか。
西澤さんのアイデアで、もう一つ、ネットで見つけてきたのが、「あなたがこの映画の値段を決めてください」、というもの。
- 西澤
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うわ、よく見つけましたね。
- 池ノ辺
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これはなんでこういうことになったんですか?
本当に、観客に入場料を決めてもらったんですか?
- 西澤
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あのね、コーエン兄弟の『ファーゴ』でドツボにはまる犯人役を演じた名優、ウィリアム・H・メイシーが初監督した『君が生きた証』という映画があるんですけど、これがね、傑作なんですよ。
銃乱射事件で息子を亡くした父親の葛藤の物語で。
- 池ノ辺
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これはどこの配給さんだったんですか?
- 西澤
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ファントムさんです。
僕ね、この映画をどうしても当てたかったんです。
すごくいい映画で、息子の死を受け入れられない父親が、息子の遺した曲を自分で歌って、広めていこうとする。
そこでいろいろあるんだけど、もう超感動して泣ける映画なんですけど、ベースの宣伝以上に、もう一歩、お客さんの足を劇場に運ばせるような秘策がなかった。
それで、劇場からの提案として、「売上度外視、観客によってはゼロ円でもいい、とにかく劇場で見てほしいから、それを売りにしよう」とファントムさんに言ってみた。
- 池ノ辺
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それだけ見てほしかったんでしょうけど、ひょっとして全員ゼロ円かもしれない。
- 西澤
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そう、だから、上映前の一か月間、毎週金曜日の夜だけ劇場を貸すから、そこで、作品を見てくれた人が金額を決めていいですよ、としたんです。
- 池ノ辺
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で、どうでした? 払わない人いたでしょう?