- 池ノ辺
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公開がスタートした時の手応えはどうだったんですか?
- 西澤
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部内では、初号試写の段階で、この映画の完成度が高いと手ごたえがあったし、劇場館数も60数館でブッキングが決まって行けるんじゃないかという感触はあったのですが、それでもまだ不安だったので、初日の数字を見て、すぐに戦略を建てました。
全国60館の公開で、これだけ評判が良くて、お客さんの充足率もあり、満足度も高い場合、通常は数字をあげるために、翌週から全国200館、300館へと公開規模を拡大するんです。
事実、いろんな劇場から「ぜひ、うちでもかけたい」と手が挙がったので、やろうと思えばできたんですけど、あえて拡大しなかった。
館数を増やすと、興行収入があがるから、興収ランキングでも2位とか3位にランキングされたと思うのですが、多くの人に一気に見てもらうと、ランキングから落ちていくのも早いんです。
でも、この作品は長いスパンで満足度、充足率をキープし、ロングラン上映にしたかったので、60館から80館、80館から100館へと、徐々に広げていった。
いつ行っても劇場では満席、充足率も高く満足度も高い、そしてずっとランキングに入っている。
結局、何週間、入ったのかな。
もう覚えていないんですけど、その算段があたって、作品の話題性もずっと維持できたんです。
- 池ノ辺
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そうそう、とにかくチケットが取れないと大騒ぎだった。
あれも戦略?
- 西澤
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はい。
特にテアトル新宿をベースにしていたから、あえて新宿エリアは広げなかった。
テアトル新宿1館に絞り、そうすると、いつ行っても「映画が見られないってどういうこと?」と話題になった。
昔はそういう戦略、腐るほどあったんです。
うちが持っていたシネセゾン渋谷でもどこでもあったんですけど、今ってなかなかそういう戦略は取らなくて、当たるときはどんと稼いで終わっちゃおうというのが多い。
劇場数を徐々に広げていって、充足率、満足度を高めていくことって、いろんな、データが実証しているけど、今、みなさん、ほんとうにやらない。
うちのこのやり方が珍しいんですね。
- 池ノ辺
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2017年に入って、一気に館数を広げましたよね?
- 西澤
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はい。
- 池ノ辺
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それでまた、すごく数字が伸びたんだ。
日本アカデミー賞のノミネートの発表のときは?
- 西澤
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その時はマックスに行ってましたね。
- 池ノ辺
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昨年は日本のアニメーションが当たり年で、新海誠監督の『君の名は。』や山田尚子監督の『聲の形』など話題作がいっぱいありましたけど、アカデミー賞は獲ると思ってました?
- 西澤
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思ってませんでした。
- 池ノ辺
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作品だけでなく、のんさんも声優なのに毎日映画コンクールの主演女優賞にノミネートされるなど、彼女の才能が再評価されるきっかけになりましたよね。
ヨコハマ映画祭では「声音の魅力に対して」と彼女に特別賞が贈られていました。
- 西澤
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ほんと、滅多にないことが起きましたね。
映画業界の人と話すと、「本当にいい映画だ」と言ってもらえるんです。
- 池ノ辺
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今、ロケ地となった呉には、人がいっぱい行って、作品の追体験をしているんですって。
それも、日本人のみならず、アジアのあちこちから来ていると聞きました。
これは成功という形になってるんですけど、クラウドファンディングでお金が集まって、制作も出来て、良い作品ができたから、お金を出した人たちが喜んで、どんどんこの作品の価値を広めていってくれたわけですよね。
要はお金を出した人が宣伝マンになった。
- 西澤
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そう! その通りです。
- 池ノ辺
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良いこと言うね、私。
- 西澤
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これはもう本当に、その通りです。
この映画の成功って、やっぱりツイッターとかSNSでの広まり方が尋常じゃなかった。
クラウドファンディングで応援してくれる方の熱も凄まじくて、すごく広めてくれたんです。
だから、『この世界の片隅で』の成功で、一つの事業形態を新しく構築できたなという気はします。
(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)
映画『スウィート17モンスター』
共感率100%!こじらせたまま大人になったすべての人に捧ぐ21世紀の青春映画の傑作誕生! 誰もが”あの頃”のリアルな痛さを思い出して悶絶&涙する人続出。”めったに出会えない宝物”のような青春映画だと全米No.1批評家サイトロッテントマト95%絶賛。
主人公ネイディーン役は、『トゥルー・グリッド』で14歳のときにオスカーにノミネートされ、歌手としても人気のヘイリー・スタインフェルド。自己愛と自己嫌悪の狭間で揺れる等身大の17歳像を演じ、ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネート。監督は、ウエス・アンダーソンを発掘した名プロデューサーが抜擢したケリー・フレモン・クレイグ。自身の脚本を初監督し、NY映画批評家協会賞第一回作品賞を受賞するなど、本作は、賞レース4受賞、18ノミネートの快挙を達成。 教師役には個性派俳優ウディ・ハレルソン、母親役に『クローザー』のキーラ・セジウィック、兄ダリアン役に『glee/グリー』シリーズのブレイク・ジェナーが、主人公に寄り添い彼女を見守る「大人になりきれない大人」たちを見事に演じている。親、兄妹、友人、そして‟あの頃の自分”目線で共感する人も多いはず。
映画 『スウィ―ト17モンスター』公開中
公式サイト http://www.sweet17monster.com/
公式Facebook https://www.facebook.com/Sweet17MonsterJP
公式Twitter https://twitter.com/Sweet17Monster
「黒歴史がうずまく、思春期の不条理を追体験できる映画」 コメント&イラスト:漫画家/コラムニスト 辛酸なめ子さん
PROFILE
■西澤彰弘(にしざわ・あきひろ)
東京テアトル株式会社 映像事業部 編成部 部長 1969年8月25日、おとめ座、A型。大学卒業後、1992年東京テアトル入社。 銀座テアトルシネマ、シネヴィヴァン六本木、シネセゾン渋谷、テアトルタイムズスクエアで劇場勤務。 2004年~番組編成担当。(ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル新宿、シネリーブル池袋、テアトル梅田、シネリーブル梅田、シネリーブル神戸、キネカ大森、新所沢レッツシネパーク、現在9サイト)