Feb 17, 2017 interview

第7回:映画業界は僕のような転職組でも受け入れてくれる土壌がある

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加茂

そうですね(笑)。

今回は東宝さんが配給、KADOKAWAが宣伝です。

東宝さんの力を借りながら全身全霊打ち込みますよ!

池ノ辺

なるほど、いい原作というコンテンツがあるから、今後もKADOKAWAはメディアミックスをさらに進めていいものを作っていくということですね。

加茂

組織も映画企画部と映画事業部という2つの部門に分けたんです。

KADOKAWAの原作を手当たり次第に読んで、これをどう映画化するのかをピックアップする部署が映画企画部、映画化に向けて脚本から製作委員会の組織づくり、資金集め、映画監督からキャスト、スタッフを固める部署が映画事業部。

『沈黙-サイレンス-』の公開があって、今は洋画が前に出てるかもしれないけれど、KADOKAWAは映画製作を積極的にやっていく、という姿勢が大事かなと、僕は思っていますけどね。

また、アーカイブ、ODS作品、他社さんの企画の窓口となるコンテンツ事業部にも力を入れていきます。

池ノ辺

新しい組織体制にもなり、積極的に進めていくということですね。

あと、KADOKAWAさんは大映や角川映画のアーカイブを持っていて、それは日本映画の素晴らしい財産じゃないですか。

昨年末から溝口健二&増村保造の映画祭をされていますが、『雨月物語』はマーティン・スコセッシ財団で4Kにしたんですって? 

それに、2017年は大映映画祭を開催されるそうですね。

加茂

そうなんですよ。

『沈黙 サイレンス』は『雨月物語』にインスパイアされている場面があります、スコセッシ監督は旧作の保存をライフワークにしています。

同じく溝口監督の『山椒大夫』と『近松物語』もレストア4K化をする予定です。

『雨月物語』のレストア4Kは昨年のカンヌ国際映画祭で上映されたんですけど、そういう形で、持っているアーカイブをいかに次世代に伝えていくかはこれからの課題ですね。

アーカイブを例えばリメイクしたり、もう1回違う形で海外に売り込んだり、アーカイブ事業もまさしく力を入れていかなければいけない、これは先人たちがくれた僕らの財産だからね、そこは。

池ノ辺

そうそう。

映画がいかに素晴らしいか、若い人に見てもらうということは、使命ですよね。

加茂

使命、ええ、そうなんです。

日本人がそれをやらないでスコセッシ監督がやってる感じですからね。

僕はパラマウント時代に『ローマの休日』や『ゴッド ファーザー』のレストアやリマスターしたものを劇場公開して多くの人に見てもらった経験もある。

昨年、本格的にアーカイブ事業をたちあげたんですよ。

アーカイブに携わっている人たちに冗談半分で言うんです、「大映や角川映画出身者のみんなより俺のほうが愛着があるとはどういうこっちゃ!」(笑)

角川映画祭や、溝口健二&増村保造映画祭などは映画営業の人間が企画を立ててやっているんですけど、そこに二次利用部隊と連携してもっとアイデア出して新しいことができないかと。

そのために、角川シネマ新宿に4K上映できるプロジェクターも入れたんです。

池ノ辺

それはすごく大事なことですよね。

洋画に関してはどうですか?

加茂

もちろん洋画、海外TVドラマの買い付けは柱の一つであることは変わりません。

先ほども申しあげたとおり洋画配給は僕らの柱の一つですからね。

アートハウス系もそうだし、ブロックバスターもやる。

4月21日に公開する『バーニング・オーシャン』はマーク・ウォールバーグ主演の2010年10月に起きたメキシコ湾の海底油田事故を基にした人間ドラマですけど、今年度のアカデミー賞の視覚効果賞と音響編集賞の2部門にノミネートされているんです。

実話の映画化ですからすごく生々しくて緊迫感もあって、非常に出来のいい映画なんですけど、そういう作品を今後も手掛けていきます。

あと、ベルリンで試写してきましたが・・・すごくしゃべりたいけど、まだ発表できないのです。

あー、残念だなあ(笑)。

池ノ辺

あー、気になる(笑)!

そして、すごく楽しみです。

さて、いよいよラストの質問です。

毎回、皆さんに伺っているのですが、加茂さんにとっての映画ってなんですか?

加茂

苦行。

池ノ辺

苦行?

加茂

そう、苦行でもあり、悦びでもある。

池ノ辺

どういうところが?

加茂

自分にとって、映画はビジネスなので当てなくちゃいけない。

これは使命。

映画業界の名言があるんですが邦画は「作るも地獄、作らぬも地獄」洋画は「買うも地獄 買わぬも地獄」どちらの地獄をとるか(笑)。

だけどそんな映画が僕自身を幸せにしてくれる。

だから、ビジネスも趣味も一緒にやれるなんてこんな幸せなことはないんですよ、やめられませんね。

でも、僕らは映画を「面白かった」「面白くなかった」批評するだけで終わらせてはいけない。

作ったり、買ったりして、つらいこともあるけど、喜びもある。

でも、全てはお客様に見てもらわないといけない。

池ノ辺

22歳の頃、営業の仕事をさぼって、映画館に入り浸っている時は、こんな境地になるなんて思ってもみなかった?

加茂

そう、それが活きた。

映画業界に行くなんて夢にも思っていませんでしたからね(笑)。

池ノ辺

でも、映画は見まくっていた。

加茂

前回、言わなかったけれど、僕、『ゴッド・ファーザー』は100回以上見ています。

毎年、正月はこれ見て気合を入れるのが僕の恒例行事。

池ノ辺

なんと!

加茂

ただ見ているだけの立場だった方が、楽だったなあと思うときはありますよ。

映画に向かって何言ってもいいんだもん、つまんなかった、よかったって。

単純に没頭してその世界に入り込みたいですね。

映画館でどんなお客さんが来ているか、映画の脚色がどうだ、脚本がどうだとか集中できない。

池ノ辺

でも、この道を選んで後悔はありませんよね?

加茂

後悔は全然ないッス!性格上飽きっぽいし、何か新しいことするのが好きだし。

だけど頭悪いし、年取って物覚えも悪くなるし(笑)。

なので自分が成長していく過程の中で、毎日同じことの繰り返しじゃ、そこで退化していくでしょう?

映画のいいところって、作品ごとに違う、宣伝していても、毎日、やることが違ってくる。

映画を作ること、買うこと、宣伝すること、営業すること、本当に日々、違ってくる。

つまりはね、映画は生ものなんですよ、だからすごく面白い。

実は僕、今日、この話をするかどうかずっと迷っていて、心の中にしまっておきたい作品があるんです。

池ノ辺

それは何ですか?

加茂

石井隆監督の『GONIN サーガ』。

2015年9月に公開したんですけど、この作品は映画評論家の方たちから、高い評価をしていただいたのですが、残念ながら興行の数字が思うようにいかなかったので、石井監督にはたいへん申し訳ないという気持ちがあったんです。

僕は石井隆監督の作品が大好きなんです。

スコセッシ監督に似ているところがあって、カメラを向け、映像にすることで、人の本質や性(さが)を浮き彫りにする映像作家だと思っています。

世間では、男と女の愛憎劇を描き続けていることもあって、エロスの方で語られることも多いけど、実は、そうじゃない深みがある。

そういうのを、何回も監督の事務所にお邪魔して話していると、ひしひしと伝わってくるんです。

で、『GONIN サーガ』には根津甚八さんが出られたんですよ、病身をおしてね。

池ノ辺

根津さん、昨年、亡くなられて、『GONIN サーガ』が遺作となりましたね。

加茂

そうなんです。

『GONIN サーガ』のキャスティングのとき、僕とプロデューサーの二宮直彦と石井隆監督と話をしていて、「やっぱり、根津さんに出てもらいたいですね」となったんです。

実は根津さんは病気で、ほぼ引退となっていました。

石井監督は根津さんにオファーを出すためにご自宅に行かれた時、根津さんは石井監督に向けて、銃をバンと打つジェスチャーをしたそうです。

つまりは「出るよ」という意思表示です。