- 加茂
-
この企画はね、みんなに「こんなの、当たるかよ」と言われていたんですよ。
でも、その時に、「これ面白そうだね」と当時、宣伝部長だった井原さんに言ったら、井原さんも「うん、面白いんだよ」という。
自分が担当していたビデオ事業部にいた企画製作プロデューサーが企画した案件でもあったし、「じゃあ面白いことやろうよ」と僕が横からけしかけていました。
しかし井原さんが東京国際映画祭の事務局への出向となって、僕は配給宣伝の現場責任者となった。
当時の宣伝プロデューサーは宣伝担当した前作が思うように当たらなかったものだから『貞子3D』は、もう開き直って腹をくくってた。
『貞子3D』は彼の火事場のバカ力がすごくて、思いつくことはなんでもやったんです。
追い込まれると人間は強い(笑)。
- 池ノ辺
-
私が大笑いしたのが、メガ貞子とゲリラ貞子(笑)。
あと、大型の貞子街宣カーが渋谷の街を練り歩いていて、道行く人をぎょっとさせていたこと。
- 加茂
-
あれはね、レコード会社がプロモーションでアーティストの新譜を売り込むときによくやっていて、あれを貞子でやろうとなった。
やるならやっぱり、渋谷だと。
で、宣伝チームから「加茂さん、日曜日に渋谷で宣伝します。絶対来てくださいね」って珍しく、熱く誘われるんだよ。
「わかった、じゃあ、朝10時に行くよ」というと、「いや、9時に来て欲しい」。
これは何か理由があるなと思って、「仕込みがあるからかい?」と聞くと、「渋谷のスクランブル交差点に貞子をいっぱい、歩かせようと思っています。警察には届けていますがまずいことになるかもしれません」と
- 池ノ辺
-
世界一、大混雑のスクランブル交差点ですからね、人もいっぱい。
日曜日の渋谷でしょ!?
- 加茂
-
そうそう、要は騒ぎになって、問題になった時に謝罪要員として「何かあったら渋谷警察署への謝罪をお願いします」と。
「そっちかい」と言いましたけど。(笑)
- 池ノ辺
-
で、誰か捕まったんですか?
- 加茂
-
捕まらないですよ。
ただ、何か起きたらどうしようと、見ていて、ドキドキでしたけどね。(笑)
- 池ノ辺
-
いつ、お巡りさんがくるかと。
- 加茂
-
来ましたよ。
でも、そんな変な騒ぎにはならなかった。
- 池ノ辺
-
むしろ、道を歩いている人たちは大喜びしたんじゃないですか?
- 加茂
-
それはもうみんな大喜び。
大熱狂で、すごかったですよ。
- 池ノ辺
-
小ちゃい子は?
- 加茂
-
さすがに泣いてた、ひやひやしたね。
- 池ノ辺
-
そのあとも、貞子は大活躍だったでしょ、番組宣伝で。
- 加茂
-
プロ野球の始球式にも出ましたからね。
あれも、大きな話題になったなぁ。
- 池ノ辺
-
この頃はSNSがあるから、貞子が動くと、話題も増えたでしょ?。
- 加茂
-
すごかった。
公開初日の午後になったら全国津々浦々の劇場、全てにこんなに入っちゃうのかというくらい人が入って、特に中高生のお客さんが多かった。
- 池ノ辺
-
地方のお客さんが動くと、映画は強いですよね。
- 加茂
-
あれは怖がらせる映画だけじゃない、面白がらせる映画でもある。
この頃は3D映画ブームでもあったので、要は体験型アトラクションムービーとして作ったんです。
映画ファンからのレビューは散々でしたが・・・(笑)。
この作品が大ヒットしたので次作の「貞子3D 2」はスマホと連動したスマ4Dと名付けたアトラクション。
そしてVSものではあるけどホラーの原点に戻って「貞子VS伽椰子」はV字回復を遂げてヒットしました。
トロント映画祭にも招待されたし、今や貞子は国民的なアイドルになった。
- 池ノ辺
-
その一方で、加茂さんはちゃんと、人の心を打つ感動作だって手掛けていますよね。
- 加茂
-
そこもちゃんと書いておいてくださいね(笑)。
僕が配給宣伝部長に就任した当時、急務を擁したのが、単館系の映画館である角川シネマ新宿/有楽町を映画館としてどのように立て直すかでした。
新宿は角川のアニメで黒字化していましたけど、有楽町に関しては、お客様目線にたっての番組編成が出来ていなくて、自社のラインナップ目線で編成していたんです。
邦画と洋画が入交り、日比谷、銀座、有楽町の特性から番組編成がマッチせず、客足も遠のいていた。
他社の配給会社から、「あそこは入らない劇場」という不名誉なレッテルを張られていて、お願いしても、みなさん面白い作品を出してくれない。
だから、自社で編成せねばならない状況でもあったんですよね。
あの映画館はいつも面白い作品を上映している、それが劇場の強みであり、原点であって、そこに立ち返って、大規模な公開はできないけれど、きちんとお客さんが来てくれるジャンルはなにか、と戦略を練った結果、音楽ドキュメンタリー映画を積極的に各映画祭で買い付けしようとなったんです。
自分が好きだったのが始まりだったんですけど(笑)
その第1弾が『ジョージ ハリスン /リヴィング イン ザ マテリアル ワールド』でした。
- 池ノ辺
-
これが大成功となりましたね。
私は第2弾で公開された『シュガーマン 奇跡に愛された男』が大好きだった。
かっこいい男で音楽も最高によかった!! 魂に響く映画でした。
- 加茂
-
そう、いい映画だったでしょう?
日本にも呼びたかったんだけどなぁ、残念ながら宣伝費が足りなかった(笑)。
『シュガーマン』は2012年度、第85回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したんですけど、音楽を題材にしたドキュメンタリーは人間臭くて感動的なものが多いんです。
有楽町ではこの後も、『ボブ マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』がヒット。
昨年は同じくアカデミー賞ドキュメンタリー賞を受賞した『AMY エイミー』を上映しヒットしました。
今でも思い出す出来事なんだけど、我々はカンヌ映画祭で売りに出ている音楽ドキュメンタリーを探していたんです。
そのとき洋楽好きの海外企画の人間が「これホント面白いです!」と探してきた作品がまさしく掘り出しもので、その作品が「AMY エイミー」。
そしてさらに音楽ドキュメンタリーの集大成といえる『ザ ビートルズ/Eight days a week』、これもグラミー賞Best music film部門で最優秀賞を受賞。
昨年末には『Oasis :スーパーソニック』とたて続けにヒット作を生み出すことが出来ました。
- 池ノ辺
-
2011年7月23日に27歳の若さで亡くなってしまったイギリスのシンガー、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー「AMY エイミー」、かっこいいよね〜。
- 加茂
-
そうなんですよ。
そうなると、ドキュメンタリーだけじゃなくて、質のいいアート系の映画も上映できるようになり、『25年目の弦楽四重奏』、『イヴ サンローラン』、『Love & Mercy』、『Dear ダニー』、『ボーダーライン』『アイリス』など、有楽町がメイン館またはそれに準じる劇場としてヒットを飛ばせるまでになりました。
また、新宿では引き続きアニメや我々が持っている大映、角川映画の旧作映画祭も毎年、年2回企画してヒットしています。