- 栗原
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本人を前にしてこんなことを言うのは面はゆいんですけど、当時から今に至って加茂さんが全く変わらないのは、「私、どうしても、これやりたいんです」っていうやつがいたら、上司として絶対に応援してくれること。
今日、たまたま、会社に来る時に、スケトボーダーが目の前を通ったんですけど、そのボードの背中に「jackass」ってあったんですよ。
それ見て、ちょっとジワっときたというか、しみじみしちゃったんですけど、というのも『ジャッカス』は僕が担当したんですけど、そのときの社長から、「これまで『ローマの休日』のような上品な作品を手掛けてきたうちが、『ジャッカス』みたいなおバカでお下劣な作品を手掛けるなんて、いかがなものか」とクレームが来たんですね。
- 加茂
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社長は上品で知的な方だったからね。
- 栗原
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でも僕は、「これは絶対面白いし、こういうのが好きな層が必ずいる」というと、加茂さんが「お前がやりたいんだったらやろうぜ」って背中を押してくれたんです。
- 加茂
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俺も『jackass(ジャッカス)』大好きだからね。
自分のニックネームももじってjackamo(笑)。
- 池ノ辺
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なんと!『沈黙 サイレンス』を買いたいんですって電話したときと同じじゃないですか。
- 栗原
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そうそう、部下のやりたいことを応援する姿勢はずっと変わらない。
それとこの軽さもまったく変わらない(笑)。
- 池ノ辺
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やっぱり、サッカーやってたからかな?
絶対チームプレイが好きなんですよ、まさに縁の下の力持ちですね。
- 加茂
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それは確かに今も変わらず言ってます。
「チームでやれ!」って。
- 栗原
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加茂さんの口癖は「やりたいならやれ、そのかわり、やり切れ」「結果はいい」と。
- 加茂
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その最後の「結果はいい」はちょっとヤバい(笑)。
「結果は出せ」と会社から言われるからね。
でも、当たる当たらないはともかく、前にも言ったけど、後悔した後、反省している奴を見ると、僕は怒るんですよ。
だったら、最初から「悔いがないほどやれ」と。
- 栗原
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「ああしておけばよかった」的な発言は加茂さんは絶対に怒りますよね。
「そんな言い訳は聞きたくねぇー」って、その前に、「やりたいことは全部やれ」って。
- 加茂
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すべてやりきる気持ちがあれば任せるってことですね、現場に。
でも「俺が骨は拾ってやる!」という極めて熱い体育会的な言葉を言うんですけど、映画業界、文科系の人が多いから、その文脈が全然通じない、まさに空回り(笑)。
だから最近は、そこは学習して言葉を選ぶようになった(笑)。
- 池ノ辺
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パラマウントから角川書店に移られたのも、またヘッドハンティングですか?
- 加茂
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違いますね。
無鉄砲にも次が決まってないのに退職願を出しちゃった。
外資によくあることでハリウッドの本社の体制ががらりと変わり、僕や栗原を入れてくれた社長も一年前にすでに辞めてたんです。
前社長が辞めて約一年間はファイナンス・ディレクターが社長を代行してそれをサポートするマーケティング・ディレクターとセールス・ディレクターである僕と会社を運営していました。
しかしその後、新しい社長が決まり、新体制となりました。
ただ、どんな方も体制が変われば新しい組織を作りたいものでしょう。
- 池ノ辺
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確かに、外資系の映画会社の人たちと話していると、アメリカの意向でいつ組織が変わるかわからないから、1年間は仕事をしなくても、生活できるだけのお金を貯めておかなくてはいけないって、よく聞きますね。
- 加茂
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新しい社長が来て、新しいビルに移ったんだけど、僕は、あのオフィスに3か月くらいしかいなかったな。
- 栗原
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僕、よく覚えているんですけど、「組織がいろいろ変わっている時だけど、俺たちで頑張ろうな」って加茂さんと飲んだんですよ。
- 加茂
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立ち飲み屋でな。
- 栗原
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俺たちで絶対に頑張ろうって熱く言い合って乾杯したのに、翌日、「クリ、ゴメン、俺、辞めるわ」って言われた(笑)。
- 池ノ辺
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急転直下? 何があったんですか?
- 加茂
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実は新体制になってファイナンシャル・ディレクターもマーケティング・ディレクターも退職していて残るは僕1人。
盟友たちがいなくなって気持ちも追い込まれていて、いつ辞めようかと思ってたんです。
やっと踏ん切りがついて明日退職願を出そうと思ってたんですがみんなと飲んでるうちに気持ちが高揚してきたんですねぇー。
そして自分で明日辞めるなんて言い出せなくなり逆にキチジローのように違うことを言っちゃった(笑)。
そしてキチジローになるか、モキチになるのか。
で、僕は殉教するモキチを選んだ。
- 池ノ辺
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どうしても吞み込めないことがあったんですね。
栗原さんもご一緒に辞めたんですか?
- 栗原
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僕は3ヶ月後にやめました。
外資によくあることなんでしょうけど、組織改革で同時期に、それまでいた人は14、5人辞めましたね。
- 加茂
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皆、トモギ村の隠れキリシタン、辞めたらパライソに行けると(笑)。
僕の場合、タイミングもあったと思いますね。
僕はネスレから映画業界に入って、全く知識がゼロのところから始めたんで業界の人たちと仲良くしなくちゃと思い積極的に知り合いを作りまくりました。
そのうち邦画や独立系の人たちと付き合っていると、そういう人たちの考えていることや、やっていることが映画の本流と感じたんですね。
そこにはハリウッドメジャースタジオとは全然違うカルチャーが存在していて、自分はハリウッドメジャースタジオに所属しているけど、ホームエンタや映画配給の仕組みを知って、作品の買い付けや、映画をゼロから作る面白さこそが映画の核心なんじゃないかと思い至るようになった時期でもありました。
漠然と、このまま、本社から送られてくる企画や作品を宣伝してDVDを売り込むことだけでは面白くないなという気持ちもあったんです。。
- 池ノ辺
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なるほど。
ある意味、新しい体制が背中を押したんですね。
- 加茂
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向こうはそんなつもりはなかったと思うけど(笑)。
しかし、何も決まってないのに辞めちゃった。
- 栗原
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だけど決断は早かったですね(笑)。
加茂さん、朝辞めるって言って、夕方には段ボール3つにまとめて、僕、荷造り手伝いましたから。
- 池ノ辺
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なんだろう、ハリウッド映画の主人公みたい。
数々のスターのリストラのシーンと被る。
目に浮かぶなあ、カッコいいじゃない。
- 加茂
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だって、「もう、来なくていい」って言うからさ。
- 栗原
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その時だけ、外人になっちゃって(笑)。
- 池ノ辺
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それで初めて日本の会社に勤めることになったんですね。
では、そのお話は次の回で。
(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)
『沈黙 サイレンス』
アカデミー賞受賞監督のマーティン・スコセッシ監督が「どうしても自分の手で映画化したい」と願って28年、遂に遠藤周作の小説「沈黙」を映画化。江戸初期の日本を舞台に、キリシタン弾圧とイエズス会宣教師たちへの迫害通して、人間にとって大切なもの、そして人間の弱さとは何かを描き出したヒューマンドラマ。キリシタン弾圧を推し進める井上筑後守を演じたイッセー尾形さんが、LA映画批評家協会賞の助演男優賞の次点に選ばれた。主人公ロドリゴ役を「アメイジング・スパイダーマン」のアンドリュー・ガーフィールドが演じた。そのほかキチジロー役の窪塚洋介をはじめ、浅野忠信、塚本晋也、小松菜奈ら日本人キャストが出演。
監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ 出演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、浅野忠信、窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ ほか
全国公開中
PROFILE
■加茂克也(かも・かつや)
株式会社KADOKAWA 映像事業局 邦画・洋画ディビジョン マネージャー 1959年生まれ。大学在学中、サッカー選手契約(読売クラブ1969 現東京ヴェルディ)戦力外通告後、ワーナーランバート、ネスレジャパンを経て2002年パラマウント ホーム エンタテインメントに入社。 2007年角川エンタテイメントに入社後、角川映画、角川書店を経て現在に至る。