池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」
Season11 vol.03 東京国際映画祭・事務局次長 井原敦哉 氏
映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「新・映画は愛よ!!」 第3回は、現在開催中の東京国際映画祭の裏話や、今後の展望などについて伺います。
- 池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)
-
今年のオープニングイベントのレッドカーペット、メリル・ストリープは華やかでしたね。
フェスティバル・ミューズの黒木華さんの着物も艶やかで、もスゴくチャーミングだったし。
さらに安倍首相も登場されて、盛り上がりましたね。
- 井原敦哉 (以下、井原)
-
そうですね、他にも蒼井優さんや高畑充希さん、斎藤工さんなど、豪華な俳優陣の皆さんが登場してくださって大いに盛り上がりました。
-
中でも、『聖の青春』の松山ケンイチさんと東出昌大さんなどは、取材が集中したこともあって、ロングウォークになりましたね。
実は、レッドカーペットの最中に、雨が強くなって佐々木希さんがけっこう濡れてしまった……みたいなこともあったんですけど。
レッドカーペットは予定進行時間通りにいかないものなので、毎回ヒヤヒヤしてしまいます。
レッドカーペットを歩く俳優や監督というゲストの方たちは、それぞれ取材にかかる時間やファンサービスにかける時間が異なるので、そもそも予定通りの進行時間でいかないものなんですけど……。
さらにそこに安倍首相がスパーンと入場されて、ステージ上ですべてのゲストを揃える。これを成功させるのは本当に神業だと思います。
- 池ノ辺
-
ゲストに何かあってはならない訳ですし、とても神経を使いますよね。
ところで東京国際映画祭は、今年で29回目を迎えましたが、今後はどういう方向に進んでいくんですか?
やっぱり、2020年の東京オリンピックに向けて、何かやってほしいなと思ってしまいますが、いまから何か準備はされているのかしら?
- 井原
-
まだまだ具体案の輪郭は見えてきませんが、何がレガシーになるのかなども含めて、やっぱり2020年を確実に意識して動きはじめていますね。
- 池ノ辺
-
まだ発表できないかしら?
- 井原
-
というか、まだ決まっていない部分が多くて。
でも今年は、市川崑監督の『東京オリンピック』を上映する予定です。
尺が結構長くて、3時間弱くらい。
- 池ノ辺
-
すごく観たかったから、チケット購入しましたよ、東京オリンピック(デジタル修復版)!!
日の丸の旗を振りながら応援します。
スゴい映像だって聞いてるんだけど、記録映画?芸術映画?
- 井原
-
市川崑監督の記録映画ですけど、映像がすごく美しい。
アート作品のような記録映画なんですよ。
- 池ノ辺
-
そして、2020年のオリンピックの時は誰がその記録映画を撮るのかしら?
楽しみですよね。
若い映画監督に撮ってもらいたいなぁ。
- 井原
-
そうですね。
東京国際映画祭が東京オリンピックの映像制作に入っていけると面白いと思っているんですけど、まあ、どうなるかですね。
オリンピックって、スポーツの祭典だけど、文化の祭典も同時にやっていかないといけないという規約があるんですよ。
- 池ノ辺
-
そうなんだ、それで、東京国際映画祭が筆頭に上がってくるわけですね。
そうなると、秋口ではなく時期もあわせて夏になるかもしれないのかしら?
- 井原
-
そればっかりは、まだどうなるか、まったくわかりませんね。
- 池ノ辺
-
とはいえ、井原さんご自身は、これからますますお忙しくなられることには変わりないですよね?
- 井原
-
そうですね。
いろんな企画が目白押しなので、色々と頑張らなくてはと思っています。
- 池ノ辺
-
映画会社にいた頃と、東京国際映画祭の事務局次長になられてからとでは、どんなことが大きく変わりましたか?
- 井原
-
それを考えると、自分の人生っておもしろいなぁと思いますね。
はじめはGAGAに入社して、洋画の輸入だけを担当していました。
その後、邦画も担当し始めて、映画の別の側面も見えてきた。
そしていま映画祭の事務局次長という立場になったら、映画を通じて、また別の景色が見えてきたんですよね。
どういうことかというと、映画会社を離れたからよくわかるんですが、会社に所属していると、当然、その会社の利益のために働きますよね。
でも今は、映画祭の中の立場にいるので、ひとつの映画会社の利益だけではなく、日本映画全体の利益や向上を考え始めたということです。
日本映画をどんどん海外に持って行って、日本の映画文化自体を豊かなものにしていかないといけないという視線になってきました。
- 池ノ辺
-
そうですよね。
そして、どんどん、その幅は広がっていますよね?
- 井原
-
でもやっぱりまだ日本はそこそこ豊かな国なので、日本国内だけの収支で映画製作がまかなえている状況がどうしてもあるかなと。
外国人の方にはまったくわからないかもしれませんが、これが今年の大きな目玉かもしれませんね。
でも、今話題のピコ太郎じゃないけれど、それこそYouTubeのようなプラットフォームを通じてでも、たとえ個人でも映像をどんどん海外に持って行くことが可能な時代じゃないですか。
なので、映画祭も、個人や一企業では難しいフィールドで、その架け橋のきっかけづくりみたいなことになれるといいなあと思っています。
逆もしかりで、世界にはこんなにおもしろい、すばらしい映画があったんだという発見や紹介になる架け橋づくりをしたいですよね。
- 池ノ辺
-
そうしたら次は、中国ですよね?
- 井原
-
そうですね。
東京国際映画祭と連動している映像・音楽・アニメーションの国際見本市を集約したマルチコンテンツマーケット『TIFFCOM』では、今年は対中国のセミナーをたくさん行うので、業界内外に関わらず、ぜひ観に来てほしいですね。
中国から有識者やゲストをお呼びしているので、生の中国の声がきけるんじゃないかなと僕も結構期待してるんですよ。
- 池ノ辺
-
映画業界も中国は無視できない時代ですよね。
でも現場の生の声ってなかなか聴けないから貴重ですね。
特に中国は、事情が他と比べて異なりますし。
- 井原
-
そうなんです。
例えば、『モンスター・ハント』が大ヒットしたじゃないですか。
日本だけなんですよ、2Dが流行ってるのって、世界の市場で見ると局地的なんです。
アメリカでは3DCGが主流だし、全世界でも基本になっていますね。
中国ではハリウッド映画の『カンフー・パンダ』が大ヒットしていますし。
- 池ノ辺
-
日本では全然ダメでしたよね。
- 井原
-
日本ではどうしても3DCGのアレルギーがあって、なかなか難しい。
でも日本には、作る技術はあるんですよ。
なので、どちらかというと、海外に市場の目を向けた方がいい時代になってきていることは確かだし、その市場と作り手を結びつけることにも、映画祭の役割があると感じています。
- 池ノ辺
-
なるほど。
うちも今年の春に直接上海の映画会社から、「映画の予告編を作ってくれますか?」って電話が入りましたよ。
結果、その話は無くなったのですが、すごいことが起ころうとしている!と感じています。
では、次回からは井原さんのこれまでの映画業界でのキャリアを振り返りながら、色々とお話を聞かせてください。
(文:otoCoto編集部、写真:岡本英理)
第29回 東京国際映画祭
日本の映画産業、文化振興に大きく寄与してきた映画祭で、国際映画製作者連盟公認としては日本唯一の国際映画祭。今年は日本映画の特集上映では、アニメーション作品『バケモノの子』を監督した細田守の特集や、黒木華主演の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』で日本映画として約12年ぶりに実写長編映画を手がけた岩井俊二監督の特集企画が決定。
2016年10月25日(火)~11月3日(木)まで。 会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか。
PROFILE
■ 井原 敦哉(いはら あつや) 公益財団法人 ユニジャパン 東京国際映画祭 事務局次長
1968年、長崎県生まれ。1993年に明治大学を卒業後、株式会社ギャガ・コミュニケーションズに入社。パブリシティ、宣伝プロデューサー業務に従事。99年にアスミック・エース エンタテインメント株式会社に移籍、宣伝部長を務める。2007年に株式会社角川エンタテインメントに転籍し、宣伝部長として、ハリウッドのドリームワークス作品を手がける。10年に角川映画の宣伝部長、11年角川書店と合併し、映画営業局局次長兼映画宣伝部長に。12年公益財団法人ユニジャパンに出向、東京国際映画祭事務局次長に就任、現在至る。