Jul 22, 2016 interview

松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長 諸冨謙治 氏
第5回:僕のライフサイクルは、7年ごとに何か起きています。

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池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」

映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」 第5回は、ショウゲートの退社後から、松竹に転職するまでの話です。

→前回までのコラムはこちら

池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)

諸冨さんはショウゲートの後、CJエンタテインメントという韓国映画専門の配給会社に移りましたよね。

シネカノンに7年、東芝エンタテインメント改めショウゲートで7年。

「7」というのが、一つのサイクルなのかしら?

諸冨謙治 (以下、諸冨)

そうかもしれないですね。

この機会に作品歴を振り返ってみたのですが、僕のライフサイクルは、7年ごとに何か起きています。

池ノ辺

C Jエンタテインメントは、やっぱりシネカノン時代から数々の韓国映画を手掛けたことで、ヘッドハンティングされたんですか?

諸冨

ショウゲートでは、今、20世紀フォックスにいる中村朱美さんの下で、宣プロとして作品も抱えつつ、肩書としては次長で他の若手のサポートもしていました。

年齢としては30代後半の時期です。CJエンタテインメントはもともと韓国では最大の配給会社で、2010年に日本支社を作ると聞いて、正直、韓流が下火になりかけの頃で「このタイミングはどうかな」と思っていたくらいです。

ただ、韓国本社との窓口業務を担当していた人がアミューズにいた頃からの知り合いで、「今度『シュリ』のカン・ジェギュが監督する『マイウェイ 12,000キロの真実』という作品があるんだけれど、オダギリジョーとチャン・ドンゴンが主演で、戦時中の日本人と韓国人の邂逅の物語で、邦画と韓国映画の要素がどっちも入っている。二つともやってきたような人はそうはいないから」とお誘いを受けたんです。

それで「宣伝部長としてなら」ということで移籍することになりました。

池ノ辺

CJエンタテインメントに入ってすぐに『マイウェイ』の宣伝をしたんですね。

諸冨

2011年1月に入社して、その時にはすでに撮影がスタートしていて、大作でしたので、韓国で4か月ほど撮影をしていました。

韓国の冬はとても寒いんですが、僕も何度か撮影現場にお邪魔しました。

一方で、すでに完成済みの他の配給作品を宣伝部員と一緒に手掛けてました。

池ノ辺

私がよく、覚えているのは、諸冨さんが入社したことで、CJエンタテインメントの宣伝が華やかになったこと。

予告編に関しても、先付けも後付けも、多様な広告展開をやっているなと。

「ちょっと、これ、面白いんじゃない」と思った記憶があります。

さすが諸冨さんだ!って嬉しかったのよ。

諸冨

ただ、僕がCJエンタテインメントにいたのは1年3か月ほどなんです。

『マイウェイ』は宣伝がCJエンタテインメント、営業が東映と共同配給をしたのですが、結果としては思ったような数字が出なかった。

カン・ジェギュ監督としては、『シュリ』も『ブラザーフッド』も日韓どちらでも大ヒットして、それ以来の企画だったから、韓国にも日本にも受け入れられたい。

CJエンタテインメントも社内の宣伝部だけでは荷が重く、宣プロを抱える会社・キコリの社長である木村さんのお力も借りながら進めていたのですが、作品の完成が公開直前のうえ、日韓双方に気を配り過ぎて、宣伝に少し迷いがあったかもしれません。

なにより『シュリ』や『ブラザーフッド』の公開時期には「日韓W杯から韓流へ」という時代の追い風がありましたけれど、『マイウェイ』公開時の2012年は、逆に政治的に日韓の関係が冷え込んで、韓流へのバッシングも強まっていましたから。

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池ノ辺

映画の興行って水物とよく言うけれど、政治との関連はありますよね。

諸冨

それはありますね。

やはり映画には、その時代を写す鏡のような側面があると思います。

池ノ辺

こんなことを言ったら失礼かもしれないけれど、『マイウェイ』が興行的に厳しい結果となったことが、次のステップに繋がったという要素はありますか?

諸冨

製作費も莫大でしたし、日韓ともに結果が出なかったので、日本支社もスタッフの人員を減らす方向になりますよね。

一応、外資系の企業でもありますし。

ただ、それがまた、次へと繋がるのですが。

池ノ辺

それで、いったい、諸冨さん、どうするのかしらと心配していたら、すぐに松竹に行ったのよ。

少しゆっくりしたいと言ってたけどね。

諸冨

これもご縁とタイミングで、当時の松竹の宣伝部長が、東芝エンタテインメント時代の上司だった因藤靖久さん、いま松竹ナビという松竹の子会社の社長ですね。

ちょうどそのとき、松竹は『エクスペンダブルズ2』の宣伝の立ち上げをしようとしていた時期で、前作『エクスペンダブルズ』の宣プロが企画部に異動になってしまったので、担当しないかとお話をいただいて。

池ノ辺

そうそう、『エクスペンダブルズ』の1も、松竹さんでした。

こういう洋画を松竹も配給するんだって驚いた記憶がある。

ポニーキャニオンさんと共同出資だったんですよね。

それにしてもすごいタイミングですよね。

今までやってきたことが認められたんだよね〜。

諸冨

他にも今までのご縁で、いくつかお話をいただいてはいたんですけれども。

池ノ辺

いろんなところから声がかかった中で、松竹を選んだのはなぜ?

諸冨

短期的にはスタローンの新作という魅力ですね、『ロッキー』世代ですから(笑)。

あと長期的に見れば、やはり基本は邦画の会社なので、より自分を活かせる部分があるかなと。

最初に申し上げた通り、僕は就活の時も広告代理店で3年働いた後も、あの頃は松竹で働くとは正直思っていなかった。

でも映画人生を15年ほど続ける中、巡り巡って時間はかかったけれど、いま松竹でいい形で仕事をさせてもらっていると思っています。

もともと知り合いが多くいたこともありますが、働く仲間としていい人が多いし、自分としてはすんなり溶け込んで働けているんじゃないかな、と。

いま松竹では4年経ったくらいですね。

よく「もっと昔からいる気がする」と言われるし、自分でも、そう思うくらいですけれど(笑)。

池ノ辺

ちょうど松竹は、自社企画でどんどん邦画を作っていこうという時期だったから、大変だったとは思うけど、面白いこともできたでしょう。

諸冨さんって、いつも、新しいムーブメントを起こそうという場所に行くわね。

諸冨

うーん、まあ、ご縁というか巡り合わせなんですかね。

池ノ辺

いわば、「立ち上げ部門」の専門家なんじゃないの(笑)。

諸冨

最初の1年半は、先に挙げた『エクスペンダブルズ2』や、堤真一さん主演の『俺はまだ本気出してないだけ』、『柘榴坂の仇討』などの宣プロを手掛けていました。

そのあと、ショウゲートでもCJでも管理職をやっていたので、現在の宣伝企画室長のポジションでやってみてくれないか、という話になりました。

池ノ辺

それが何年?

諸冨

2013年ですから、3年前ですか。

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池ノ辺

『八日目の蝉』のヒットは諸冨さんの入社前?

諸冨

入る前ですね。だから、僕が入って宣伝がガラっと変わったなんてことは勿論なくて、まずは企画の強さありきだと思います。

2年前の2014年は、自社企画が花開いた、すごくいい年だった。公開順でいうと、1月に山田洋次監督の『小さいおうち』、3月の『白ゆき姫殺人事件』、6月の『超高速!参勤交代』、7月の『好きっていいなよ。』、8月の『ホットロード』と、次々とヒット作が生まれました。

池ノ辺

諸冨さんはどの作品からコミットしているの?

諸冨

『白ゆき姫殺人事件』以後は、ポスターや予告といった宣材物はもちろん、キャンペーンの構築全体に関わっています。

そしてこの連載の初回の話に戻るんですけど、ヒットの要因は、自社企画でいい内容の作品が揃ってきて、宣伝部としてはそんな企画があるなら、タイトルはこうできないか、宣伝コンセプトはこう、時にはキャスティングや音楽にも意見を出したり、デザイナーさんやカメラマンさんならこの人、予告だったらこういう形にしていこうよ、と早い段階から制作側と共有できるようになったことだと思います。

池ノ辺

素晴らしい。これまでやってきたことが、具体化して、ちゃんと形になっている。

今、一番、面白いでしょう?

諸冨

単館上映から全国チェーンまで、邦画も洋画も全部やってきたので、その強みはあると思います。

全国30館規模の作品と、夏の大作では、それぞれターゲットも違えば、売り方も宣伝の届け方も違う。

でも、自分が過去やってきたことに縛られずに、担当宣プロがやりたい方向を聞きながら、じゃあどういう風に宣伝全体を組み立てていくか見極めていくことが大切ですね。

映画の宣伝は、「コンセプト」「ターゲット」「スケジュール」「予算」これら大きな戦略のどこかが間違うと、後でいくら戦術が良くても、容易には回復できないじゃないですか。

そのために、まずは仮説を立てて、時にターゲットへのリサ―チも重ねて検証して、「お客さんの声に耳を傾ける」ようにしています。

池ノ辺

それで今年、成功したのが最初に聞いた『殿、利息でござる!』なのですね。

あの作品のヒットの秘訣を聞いただけで、今回の対談の話は終わっちゃったかな?!というくらい、すごく分かりやすかった。

諸冨

手前味噌ですけど、松竹の宣伝部には、いま優秀な宣伝マンが着々と育ってきていると思っているんです。

企画段階から作品の本質を見極めて強い宣伝コンセプトを作る入口戦略と、公開直前に世の中をどんな風に騒がせるかという出口戦略、どちらも極めて大事で、さらにはそれを実現するためには関係者や媒体への粘り強い交渉が必要なわけです。

『殿、利息でござる!』で言えば、入口部分のタイトル開発からキービジュアル含めて宣伝コンセプトをしっかり作り上げたうえで、公開直前のパブリシティやタイアップの仕込みまで出口部分を支えるべく、宣伝チーム全体が粘り強く頑張ってくれました。

今年は特に『家族はつらいよ』、『殿、利息でござる!』、『植物図鑑』、『HiGH & LOW THE MOVIE』とそれぞれのチームが本当に頑張ってくれて、結果もついてきているので、本当に頼もしく思っています。

池ノ辺

そういう体制が出来上がって、「おお、優秀だわ」と 私が感じたのが、昨年公開された『愛を積むひと』の予告編を作ったときだった。

それと、松竹の120周年の記念映像を作ってくれと依頼されたとき。

なんかみんな元気で楽しそうだった。

ちゃんと流れてるな〜、今までと違うな〜とすごく感じた。そういうみんなのエネルギーが大ヒットを生むのよね〜。

では、次回では120周年のお話を伺いましょう。

(文・構成:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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Ⓒ2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

http://himitsu-movie.jp/

PROFILE

■ 諸冨謙治(もろとみけんじ) 松竹株式会社 映画宣伝部 宣伝企画室長

1971年東京出身。大学卒業後、広告代理店旭通信社(現・アサツーディ・ケイ)でプロモーションを担当した後、97年シネカノンに入社。制作進行から宣伝まで主に邦画での宣伝業務を担当。2004年に東芝エンタテインメント(現・博報堂DYミュージック&ピクチャーズ)に移籍し、洋画(米国・欧州・アジア)・邦画と幅広く作品を担当。その後、CJエンタテインメント・ジャパンでマーケティングチーム長を経て、12年に松竹に移籍し、13年より現職。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、「ボディーガード」「フォレスト・ガンプ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ」「マディソン郡の橋」「トップガン」「羊たちの沈黙」「博士と彼女のセオリー」「シェイプ・オブ・ウォーター」「ノマドランド」「ザ・メニュー」ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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