Mar 29, 2019 interview

【『いだてん』美濃部孝蔵役・森山未來、インタビュー】 松尾スズキに弟子入りしてビートたけしになるような役回りは光栄だが、戸惑いも

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──たけしさんとはお話されていますか?

たけしさんって、撮影中は楽屋に戻らず、スタンバイの最中もセットの裏でモニターを見ているんですよ。物静かな方ですが、他者をシャットアウトするような雰囲気ではなくて、落語の話などをしてくださいました。古今亭はあたたかい落語だからやっぱりいいよね、みたいなことを。

──たけしさんの演技ですごいと思ったところは?

いっぱいありますが、高座のシーンを見ると生粋の芸人さんなんだと感じます。お客さん役のエキストラの皆さんを温めるために小噺をしてみせた、という話がニュースにもなっていましたが、事前にちゃんとそういうときに話す小噺を用意してきていらっしゃるみたいですね。

──師匠・円喬を演じている松尾スズキさんとの共演はいかがですか。

素晴らしい作家であり、演出家であり、役者さんでもあるので緊張しますねえ、松尾さんとの場面は(笑)。なんだか、ほんとうに師匠みたいな存在なんですよ。決して高圧的な人じゃないですが、なにを考えているかわからないところがあるから、芝居中にこちらからなにを提示したらいいかわからなくなる時がある。下手なこと言うと雑誌の連載になに書かれるかわからない、みたいな(笑)。実際、いつの間にか書いてたりするから(笑)。それは冗談ですが、そういった近寄りがたさみたいなものが、円喬と孝蔵との関係性を演じるうえですごくよかったと思います。やがて円喬との別れも描かれますが、松尾さんの不思議なあたたかさで、孝蔵の心に感情を自然にすっと浮かばせることができるところが“松尾スズキ”の凄さだと思いました。

──松尾さんを人力車に乗せたとき、どうでした?

精神的な重みがありましたかね。ただまあ、孝蔵は車夫が本来の仕事ではないので、下手くそだという設定で、かなり荒くぶん回させてもらいました(笑)。

──車を引く場面では、鍛えられた肉体が注目されていましたが、いかがですか?

フーテンみたいに生きてきた男がいいガタイしているわけはないですよね(笑)。でも、ダンサーもやっているのでしょうがなくて……。まあ荒くれ者として生きている孝蔵だから、これはこれでいいんじゃないかと思ってやっています。ただ、普段はできるだけ着痩せする衣裳を選んではいます。『モテキ』のときも、大根さんができるだけ体がでかく見えない服を着させようと気を配ってくれてはいたんですよ。

──宮藤官九郎さんの脚本の魅力を教えてください

宮藤さんとは以前、舞台(2009年『R2C2〜サイボーグなのでバンド辞めます!〜』)でもご一緒させていただきましたが、……なんていうか、すごいですよね。今回も台本を読んでいて、時代や場所がどんどん直感的に移り変わっていく流れが、ややこしくなりそうなのにそうではなく、自然に楽しく読めるんです。台本がすでに読み物として面白いし、宮藤さんが楽しんで書いてるのが伝わってくる。それを実際に立体的に立ち上げるスタッフは大変だと思いますが(笑)。

──では最後に、13回の見どころをお願いします。

円喬に弟子入りして、朝太という名前をもらい、初高座についに上がる瞬間の回になります。真面目に落語に取り組みたい気持ちがありながら、彼の弱気というか、緊張も手伝って、一筋縄ではいかない。はたして成功するのか……というところを見ていただきたいのと、四三さんがストックホルムで走っている瞬間がリンクしていくところが見どころです。初回からずっと、孝蔵と志ん生が四三さんや田畑(阿部サダヲ)に近づいては離れて……を繰り返していて、その精神的距離感が13回でぐっと近づく見せ場になっています。13回というファーストクールの締めであり、セカンドクールのはじまりという重要なタイミングで、いよいよ、孝蔵と志ん生の存在意義を感じていただけるのではないかと思います。

取材を終えて。 取材用の部屋が記者でぎゅうぎゅう詰めになったところに現れた森山さんは「こんなに?」とびっくりしていた。たくさんの記者、ひとりひとりの質問に言葉を尽くして丁寧に答えてくれて予定時間を超えそうになってしまうほど。身体的なところから精神面まで、いろんな角度から役へのアプローチについて考えている真摯な姿勢が、画面からにじみ出る美濃部孝蔵の魅力につながっているのだろう。当人は謙虚に振り返っていたが、酔って「富久」を語る場面は迫真だと関係者は言う。13回以降、孝蔵の存在感が増していくので見逃せない。

文・木俣冬

プロフィール

森山未來 Mirai Moriyama

1984年8月20日兵庫県生まれ。俳優、ダンサー。5歳からダンスをはじめ、1999年『BOYS TIME』で舞台デビュー。2003年ドラマ『WATER BOYS』、04年映画『世界の中心で、愛をさけぶ』で全国区の人気を獲得、舞台、映画、テレビドラマで活躍する。2009年NHK大阪放送局制作『未来は今』、2010年『その街のこども』(井上剛演出)に出演、2010年『モテキ』(大根仁監督)が大人気で11年には映画化もされた。『いだてん』制作統括・訓覇圭との仕事には、2013年〜14年、イスラエルに文化交流使として行っていた様子をドキュメンタリーにした『森山未來 自撮り360日 踊る阿呆』(演出:井上剛)がある。

作品紹介

大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』

NHK 総合 日曜よる8時〜 脚本:宮藤官九郎 音楽:大友良英 題字:横尾忠則 噺(はなし):ビートたけし 演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁 制作統括:訓覇 圭、清水拓哉 出演:中村勘九郎、阿部サダヲ、綾瀬はるか、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか

第十三回 「復活」 演出:井上剛

木俣冬

文筆家。著書『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説 なつぞら」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など。 エキレビ!で「連続朝ドラレビュー」、ヤフーニュース個人連載など掲載。 otocotoでの執筆記事の一覧はこちら:[ https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/ ]