Sep 30, 2016 interview

映画『SCOOP!』大根仁監督インタビュー「何かボタンのかけちがいみたいなことがあったら、今の大スター福山雅治にならない、もうひとつの人生があったんじゃないか」

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『モテキ』『バクマン。』などの鮮烈なエンターテイメント映画を撮ってきた大根仁監督の新作が登場。主演を務めるのは大根と初タッグを組む福山雅治だが、その福山が演じるのは何と自堕落な日々を過ごしながら芸能スキャンダルを追いかける中年カメラマン。「日本一スキャンダル写真を撮られない男」とも呼ばれる福山を下世話なパパラッチ役に配したスキャンダラスでスリリングな映画がどのようにして作り上げられたのか、監督の大根仁に直撃した!

 

──写真週刊誌などからスクープを狙われる側である福山雅治さんがスクープを狙うカメラマンを演じています。このことに関して福山さんご自身はどういう反応でしたか?

大根 本人の最初のリアクション自体は、僕も知らないんですけど、たぶんピンと来るものがあったんだと思います。最初、テレビ朝日のプロデューサーから「福山さんで映画をやりませんか?」という話があって。俺に声をかけてくるってことは今までと違うアプローチでやりたいってところと、そんなに立派な人物を演じたいわけではないというところがあるんだろうなと。福山君とは以前から面識はあったんですけど、たぶんある種のピカレスクロマン的なことをやりたいんじゃないかなと思ったんですよ。

──そこで大根監督が選んだのが1985年のテレビ映画『盗写1/250秒』をもとにした作品でした。

大根 この企画は前からやりたいなと思っていたのですが、なかなか実現しなくて。「福山君で映画を」という話を聞いて、「福山君は自分で写真も撮るし、彼がスキャンダル写真を撮る側を演じるというのは面白いな」と思って、福山君仕様で企画書を作りなおして出したら、これで行きたいと。

 

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──福山さんが下品な中年パパラッチを演じることにインパクトと魅力があります。福山さん演じる都城静の人物像はどのようにして作り上げたんでしょうか?

大根 原作のキャラクターとはだいぶ変えたので一から作り上げた部分もあるんですけど、福山君本人と会っていろいろと話を聞いて本人の素のパーソナルな部分も入れ込んでいきました。今は福山君って誰もが知る大スターだけど、所属事務所に入る前には東京に出てきて何もしてないフリーターみたいな時期もあって、そのときに何かボタンのかけちがいみたいなことがあったら、今の大スター福山雅治にならない、もうひとつの人生があったんじゃないかみたいなことをイメージしました。

──福山さんの相棒の新人記者・行川野火を演じたのは二階堂ふみさんです。

大根 野火を誰にしようかなと思ったときに身長が小さい子がいいなと思ったのと、福山君との声の相性がすごく大事だなと思ったんです。そんなことを考えていたら偶然ふみちゃんと会ってあいさつをしたときに、その場で「来年、福山君の映画があるんだけど、やらない?」と言ったら、「やる!」って返事で。「じゃあ、明日、事務所に電話しとく」となったんです。

 

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──その他にもバッチリとハマる役者陣がそろっていますね。

大根 リリーさんはそういう契約を交わしているわけじゃないんですけど(笑)、なぜか俺の映画には必ず出ていて。リリーさんとはよく飲んでいるので、「次、福山君でやるのでお願いします」「わかった」っていう感じでした。リリーさんももちろん福山君と仲がいいし、このふたりがやるなら行けるぞと。

──ふたりの副編集長を演じた吉田羊さん、滝藤賢一さんへのオファーはどのように?

大根 副編集長の定子は、吉田羊しか思いつかないじゃないですか。プロデューサーに連絡してもらったら、羊さんは当然すごく忙しいんでやれるかどうかわかんないという話だったんで、俺が直接、事務所の社長に連絡したんです。「羊さんしかいないんです」って話をしたら、受けてもらえて。滝藤さんは前に一緒にやったときも(ドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』)、ずーっと走らせたんですけど、「来年、映画やるので、また走ってもらいますから準備しておいてください」と冗談混じりのお願いをしました(笑)。

──二階堂さん演じる野火の仕事に対する意識が変わった瞬間に、福山さん演じる静が思わず彼女にとる行動にも納得というか。あの瞬間の野火が非常にかわいく魅力的に見えましたがどういう演出をなさったんでしょう?

大根 現場であんまり演出ってしないんですよ。演出も何も福山君とふみちゃんのふたりにまかせるとあのシーンになったという感じですね。役者はプロだし事前に脚本は渡してあるんだから、考えて現場にやってくる。みんながそうやって持ってきたものを組み合わせて調整するのが俺の仕事ですよね。

 

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──では、撮影現場では役者さんとどういう話をするんですか?

大根 なんですかね。「お弁当おしいかったね」とか「そのネイルかわいいね」とか(笑)。役者とは現場に入る前に話をしますね。役者には「現場では俺はいろいろやることがあるので」って言うんですよ。お弁当食べたり、ツイッター見たりとかいろいろ忙しいので……(笑)。

──なるほど(笑)。

大根 だから、「現場ではかまうことができないので、何かあったら現場に入る前に言って」という話はしますね。

 

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──撮影前には実際の写真週刊誌の編集部の取材もおこなったそうですね。

大根 写真週刊誌の取材の方法とか細かいエピソードや小道具的なもののリサーチもしましたけど、現場にいる人たちがどういう意識で仕事をやっているかというメンタリティの部分を作品に取り入れました。本当に野火ちゃんみたいな子が編集部にいたりしたので、そういったところから人物像に肉づけしていった感じです。

──ド派手なカーアクションもありますが、あの撮影場所は東京ですか? 東京でもああいうシーンが撮れるものなのですか?

大根 ねえ。どうやったんでしょうね?(笑) 東京を舞台にしたカーアクションをちゃんとやってみたかったんですけど、いかにもなクライムアクションみたいなカーアクションは邦画においては嘘くさくなるじゃないですか。それをコミカルに無理なくやれる方法はないかなって前から思っていたんです。今回は主人公が車で追われることの必然性があるから、デフォルメしてコミカルにやりたいなって考えたんですよ。スタート地点のホテルが帝国ホテルっていう設定で、銀座から日比谷のほうに逃げて国会議事堂前を通って虎ノ門を抜けてマッカーサー道路のトンネルを通ってみたいなコースはリアルに考えて。実際に国会前を走らせたり、マッカーサートンネルの入り口で撮ったりもしているんですけど、それ以外ではいろいろやっていますけど、企業秘密ということで(笑)。

──他のシーンで映る東京の風景も印象的でした。

大根 セリフにもありますけど、芸能人がいるのはだいたい六本木、西麻布、恵比寿、中目黒みたいな感じじゃないですか。ここは絶対に嘘をつきたくないなと思って。でも、そういった場所の、特に夜の撮影は諸事情で本当に大変なんですよ。(許可をとらない)ゲリラ撮影とかは一切してないんですけど、簡単なことではないので、どうスムーズにしかもリアルにやるかってことはけっこう考えました。

 

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──『SCOOP!』もふくめて大根監督の映像作品は原作ものが多いと思うんですが、普段から原作になるものを探してたりするのでしょうか?

大根 探したりはしないですね。

──小説や漫画を読むときに「映像化するとしたら」みたいな意識を持ってるわけではないんですね。

大根 全然持ってないですよ。『教団X』(中村文則の小説)を読みながら、「誰をキャスティングしようかな。西島秀俊君かな?」みたいなことは思ってないですよ(笑)。

──本のことをお聞きしたのはotoCotoが電子書籍も扱うサイトだからなんですが、電子書籍に限らず最近読んで面白かった本はありますか?

大根 電子書籍も読みますよ。村上春樹さんの人生相談があったじゃないですか。

──期間限定のサイトでやっていたものですね。

大根 あれが単行本化されていますけど、電子書籍版は全部の回答を収録していて(書籍版は質問と回答の選りすぐりをピックアップしたもの)、おそろしい分量になっているんで電子のほうが合っているなと思ったし、ちょっとした時間にちょうどいい感じですね。

──村上龍作品にもツイッター上で言及なさってましたよね。20~30代のころは海外に行くときには『愛と幻想のファシズム』をお守りのような感じで持っていってた、と。

大根 そんなこと書いていましたっけ? 今はしないですけど、当時はね。海外に行くときに持っていくと、なんか安心したんですよ。

 

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──他に最近読んで印象的だった本はありますか?

大根 どっから出たムックだったかな。神戸山口組の織田若頭代行がインタビューに答えているムック本(『山口組分裂「六神抗争」365日の全内幕』宝島社)が面白かったですね。織田若頭代行は神戸山口組のスポークスマンなんですけど、すごくいい顔をしていて魅力的なんですよ。

──では最後に『SCOOP!』を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします!

大根 冒頭からラストまで飽きずに見られるように作ったと思っています。映画を作るときは毎回、それまでになかった新しい映画、邦画って意識しているので、今回もまた違った形の新しいエンターテイメント作品ができたのではないかなと、判を押したような答えで申し訳ないですが(笑)。

 

取材・文/武富元太郎
撮影/吉井明

 

プロフィール

 

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大根仁(おおね・ひとし)

1968年12月28日、東京都出身。映画監督、映像ディレクター。これまでに手がけた主な作品はドラマ『モテキ』『まほろ駅前番外地』『リバースエッジ大川端探偵社』、映画『モテキ』『恋の渦』『バクマン。』など。2017年には映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』が公開される予定。

 

 

■映画「SCOOP!」

 

『モテキ』『バクマン。』の大根仁と福山雅治が初めてタッグを組んで放つ、痛快エンターテイメント。かつては報道カメラマンとして活躍しながら、現在は芸能スキャンダル専門のパパラッチに落ちぶれてしまった都城静(福山雅治)。自堕落な生活を送り借金まみれの静は、写真週刊誌『SCOOP!』の副編集長・横川定子(吉田羊)から配属されたばかりの新人女性記者・行川野火(二階堂ふみ)とコンビを組むように命じられる。右も左もわからないド素人の野火と下品な中年男の静はまったく噛み合ず衝突を繰り返すが、やがて独占スクープを連発して『SCOOP!』に大きな活気を与えるようになる。そんな静と野火のコンビは日本中が注目する重大事件の現場で奇跡のスクープ写真を狙うが……。『クライマーズ・ハイ』『日本のいちばん長い日』などの原田眞人の1985年のテレビ映画『盗写 1/250秒』を原作に、福山雅治のほか、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキーといった豪華キャストを迎えたスリリングな一作。スキャンダル写真を撮るために静たちが繰り広げる奇想天外な作戦のエンタメ性、個性豊かな登場人物たちによるコクのある人間ドラマなどと、さまざまな観点から楽しめる。主題歌『無情の海に』で、“TOKYO No.1 SOUL SET feat.福山雅治on guitar”というまさかのコラボが実現している点も見逃せない。

 

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監督・脚本/大根仁
出演/福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー、斎藤工、塚本晋也、中村育二
原作映画/「盗写 1/250秒」(監督・脚本/原田眞人)
音楽/川辺ヒロシ
主題歌/「無情の海に」TOKYO No.1 SOUL SET feat.福山雅治on guitar(ユニバーサルJ)
製作/テレビ朝日・アミューズ
共同製作/東宝・オフィスクレッシェンド・ガンパウダー
制作プロダクション/オフィスクレッシェンド
配給/東宝
(C)2016映画「SCOOP!」製作委員会
10月1日(土)より全国ロードショー

公式サイト
http://scoop-movie.jp/

 

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関連書籍

 

『村上さんのところ』 村上春樹/新潮社

期間限定でオープンしていた小説家・村上春樹のウェブサイト「村上さんのところ」に掲載された人生相談を単行本化。読者からメールで寄せられた日常生活や社会問題、ジャズ、猫、ヤクルトスワローズなどなどにまつわる様々な質問や相談に村上が答えたものだが、村上ならではの独自の視点やユーモアが味わえる。めったにメディアに登場しない村上の肉声を聞いているような感覚が味わえるのも嬉しい。書籍版は選りすぐった質問と回答を掲載しているが、電子書籍版は質問と回答のすべてを収録した“コンプリート版”。なんと3716もの質問に村上が答えていて、仮に紙の書籍の形で出すと電話帳2冊分にもなるという超特大ボリュームを読めるのも電子版ならでは。

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『愛と幻想のファシズム』 村上龍/講談社

村上龍が『週刊現代』誌上で連載し、1987年に単行本化、1990年に文庫化された政治経済小説。1990年、世界経済は恐慌状態となり、日本は未曾有の危機を迎える。カナダでサバイバル生活を送っていたハンターの鈴原冬二はアラスカでインディーズ映画監督のゼロこと相田剣介と出会う。ゼロに誘われた冬二は日本に帰国して政治結社「狩猟社」の党首となり、独裁者として大衆の支持を集めていく……。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の登場キャラの人名の元ネタになるなど、庵野秀明に影響を与えたことでも知られる。ファシストのカリスマ性を描いた危険な小説。

 


 

『山口組分裂「六神抗争」365日の全内幕』 宝島社

世間を大きく騒がせた、日本最大規模の暴力団である山口組の分裂問題。2015年8月に山口組から離脱した団体は神戸山口組を結成して、激しく山口組と対立する。分裂から1年、その間にさまざまな衝突と抗争を引き起こした分裂劇のゆくえを密着取材で徹底的に追った1冊。抗争の鍵を握るキーマンである神戸山口組の織田絆誠若頭代行へのロングインタビューを敢行し、今年の5月に破談となってしまった山口組と神戸山口組の和解交渉の舞台裏も明らかにする!