──最近ドラマにおける表現の制限が厳しいなかで、時間帯を生かしてハードなことができるのはいいですね。
そうは言ってもやはりコンプライアンスは気にしないといけないんですよ。そこをどうくぐり抜けるかせめぎあいのなかで、出来る限りやっちゃえという感じで(笑)。第7話でリッチーが「シンメトリー」って言いながら、池田鉄洋さんのお尻を刺すところは、脚本にはなかったのですが、大丈夫かなって言いながらやっちゃいました(笑)。
──スペシャルのときのほのぼのヒューマンな感じは全方向に受けたと思いますが、そこを選択しないでエグい方向に攻めていったことは意義深いと思います。
ヒューマンといえば、若干、僕の出自である『池中玄太〜』ふうなものも重ねているんですよね(笑)。ただ元々、誰もの心の中にある黒い部分は描きたいとは思っていました。スペシャルでカットされたナレーションがあって。陽子(多部未華子)のおせっかいを灯衣(住田萌乃)に拒否られてトボトボと帰るシーンで、誰かにとっての正義がほかの誰かにとっては正義じゃないって、正義が絶対であれば、この世から戦争はなくなるはずっていうもので、脚本の段階ではしびれたのですが、場面にハマってなかったので編集でカットしてしまいました。連ドラでは、それぞれの正義が食い違っていくことを描きたいと思いました。人を善と悪に分けるのではなくてどちらにもなり得るということを見せるために、あえて人間の黒い部分を徹底して描きたかったんです。
──監督とはそういう話をするんですか?
監督はいわなくてもわかる方なんで。そのうえ、監督が違う次元で表現されるので。それこそ僕が堤さんと出会えてよかったと思う瞬間です。発想が違う方向に跳ねていくことが楽しかったです。
──そもそも、あの時間帯のテーマはあるんでしょうか。
もともとは“男の日曜日”(「大人の男性も楽しめるエンターテインメント」)みたいな感じだったと記憶してますが、いまはマルチユース展開ですかね。
──今回、続編の可能性は?
なんとかその芽は残したいと思っています。
──huluで配信する作品はどういうものなのでしょうか。
『死体の行方』という原作のエピソードを脚色したオリジナルストーリーです。質感ふくめて、気楽に観ていただけるようなものにしました。演出は、先ほどお話した菅原です。
──ところで、土曜9時のドラマが10時に変わるお気持ちは何かありますか。
それこそ石橋冠さんが『池中玄太〜』をやっていたのも土曜9時です。その頃僕は、小学5年生で、そんなに前から続いてきた枠を守れなかったという後悔や反省が湧き上がります。この感情を堤監督だったら、どんな植物にするでしょうね。石橋冠さんは土9を「銀座4丁目なんだ」と言っていました。“花形の通り”ということですね。
──感情表現といえば、あの植物の映像は面白いですね。
あれは完全に堤さんの世界です。そこは監督にすべてを委ね、ふりきってくださいとお願いしました。
──最終回がどんなふうになるか楽しみです。
最終回は、息切れするほどのものになると思います。知っています? ゴダールの『勝手にしやがれ』の英題って『Breathless』なんですよ。
──ゴダールみたいなドラマに?
それは恐れ多いでしょうけれど(笑)。とにかく、こんなにうまく、いろんな要素がかみあったドラマはなかなかつくれないので、だからどうしてももっと観てほしいですね。第8話で「誰か僕の心の中を覗いてほしい」という台詞のあとに「わかってほしい」というのもあって、監督はそれを切っちゃったんです。それでも誰もにわかってほしい、届いてほしいと願ってドラマをつくっていると思うんですよ。
取材・文/木俣冬
撮影/江藤海彦
荻野哲弘
おぎの・てつひろ
1969年12月9日生まれ。広島県出身。東京大学在学中、学生プロデューサー会議に参加、92年、日本テレビ入社、バラエティー番組『知ってるつもり?!』を経てドラマ制作へ。最初に関わったドラマは『もうひとつのJリーグ』。大学でサッカー部(サイドバック)だったことを生かしてAPをつとめる。タイトルバックでボールを蹴っている足は荻野のもの。その後、『家なき子』シリーズのADに。その他、主な代表作に『有閑倶楽部』、『ヤスコとケンジ』、『雲の階段』などがある。
日曜ドラマ『視覚探偵日暮旅人』(日本テレビ 夜10時30分)
原作:山口幸三郎『探偵・日暮旅人』シリーズ メディアワークス文庫(KADOKAWA刊)
脚本:福原充則
演出:堤幸彦 ほか
出演:松坂桃李 多部未華子 濱田岳 木南晴夏 住田萌乃 和田聰宏 上田竜也 シシド・カフカ 木野花 北大路欣也 ほか
最終回は3月19日(日)よる10時30分から
文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
現在、初めての新書を書き下ろし中。