楽しいことだけではないこと
ーー 今回演じられた役柄はいろんな問題を抱えています。誰が正しくて、誰が正しくないのか分からない状況のなかで、そういった複雑なキャラクターを演じることの難しさ、楽しさってありますか?
普段撮影をやっている間は、楽しいことだけではないんです。この作品の場合、日本だけではなく海外に向けて制作しているので分からないことも多いし、楽しいだけでは始まらない。
ーー 楽しんでる状況じゃないってことですか?
楽しんで演じた方がラックを引き寄せやすいって言うじゃないですか。それはそう思うんです。そして大前提として、この業界で俳優をできてるっていうことの楽しみはあります。だけど、ひとつの作品に関わって、どうやってこのキャラクターをちゃんと演じようかとシーンを考えていくと、その過程は楽しいだけではなく、産みの苦しみって現場にあるって感じるから。そういう意味の楽しいだけじゃない、ということです。
ーー なるほど。そのうえでこの作品はどうでしたか?
この作品は、とてもやりがいを感じたし、やりごたえがありました。このメンバーで、日本制作で、アジア各国をはじめ、いろんな方に観てもらう機会もあることが前提で制作していくのは、今までのように「映画を撮ってラッキーなら映画祭に行く」のとはわけが違う。
準備することは増えるし、分からないことにも直面する。そのなかでの制作だから、やっぱり国内向けの作品よりも、考えなければならない部分は多いなとは感じました。
ーー 主人公の阿川大悟を演じてどんなことを感じましたか?
簡単に共感できるキャラクターでも状況でもないし、どこかエンターテインメントとして描いているところもあります。哲学とか精神論じゃないけど、自分が正しいのか、正しくないのかっていう問いは、村に住んでいなくても感じると思うんですよね。
普通に日常を過ごしていても「自分が間違っているの?」っていう、正しいと思ってたものが、ちょっと違う、ずれてるって見られたときの雰囲気って、言葉になかなかしづらいですよね。この村は極論ですが、みんなに共感できる基本的なテーマだなっていうのは感じます。
ーー 本作には、食人であったり、村八分であったり、様々な怖い要素があると思いますが、柳楽さんの思う人間の怖いところってどこですか?
今回のドラマで感じるのは、その人が正しかろうが間違いだろうが、相手の意見をブッ潰す勢い。勢いがある方の言ったことが正しくなる流れ。あの勢いは怖いです。
ーー それは、演じられた大悟もそうだし、対立する後藤家もそうだってことですよね。
そうそう。あとは村の人も。「阿川家が絶対におかしいよ」っていう雰囲気をつくりあげていったり。後藤家ってフィジカル系の怖さなんですけど、村の人たちはメンタル系の怖さがあるじゃないですか。その両方の怖さで阿川家を責めてくる。だけど、そこに怖さだけじゃなく燃えていっちゃう大悟もいる。
だから、サスペンスでもあるし、アクションとしても面白い回もある。それに、家族としての部分も描かれています。いろんな要素が散りばめられているので、ぜひ観てもらいたいです。
取材・文 / 小倉靖史
写真 / 岡本英理
舞台は、都会から遠く離れた山間にある「供花村(くげむら)」。警察官の阿川大悟は、ある事件を起こして供花村の駐在として左遷され、犯罪とは無縁の穏やかなこの土地で家族と静かに暮らしていた。しかし、一人の老婆の奇妙な死をきっかけに、彼は少しずつ村の異常性に気付いて行く。そして、“この村では人が喰われているらしい”という、衝撃の噂を耳にする。穏やかな日常を次第に狂気が蝕んでいく‥‥。
監督:片山慎三、川井隼人
原作:『ガンニバル』二宮正明(日本文芸社刊)
出演:柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、北香那、杉田雷麟、山下リオ、田中俊介、志水心音、吉原光夫、六角精児、酒向芳、矢柴俊博、河井青葉、赤堀雅秋、二階堂智、小木茂光、利重剛、中村梅雀、倍賞美津子
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