―― そう考えると、家族のシーンだけじゃなく、年配者と若者のシーンがまんべんなく有り、“若者も大人も一緒、本来の人類ってそうだよね”と現実を描いているんですよね。【若者の映画】【大人の映画】と分かれていない気がします。
伊藤 いい感じに融合していますよね。
余 確かに違和感なく、世界が違うという感じはなかったです。
小林 そう言われてみればそうですね。リーダーがちょっとショボい感じとか不良の世界もリアルだよね。
余 衣装もそうですが、ひと昔前の裏社会の格好をさせたのも狙いですよね。
小林 余さんも言っていましたが、台詞はありきたりな平凡な日常のやり取りなんですが、のせる感情によって変わってくるんです。若い人たちが演じる不良たちもすれ違っているし、僕たち夫婦の間もすれ違っている。(石橋)蓮司さん演じる【沖島達雄】は、【義一】と唯一2人きりでお酒を呑める間柄なのに2人で呑んで話していても【沖島達雄】は勝手に泣いていたりする、その世界を共有しているわけではないんです。それぞれがわかり合っているというコミュニケーションが取れていない、すれ違っている印象が凄くあります。
そういう部分で若い人たちのシーンと融合という意味では共通していると思います。それによって、それぞれの人生が成り立っているように見える。一見コミュニケーションがとれているように見えて想いはすれ違っている、言葉が繋がっていないんです。そういう気持ちになるシーンが多い、そういう映画なんだと思います。
―― 伊藤さんは、この映画に出演して役者としての考え方が変わりましたか。
伊藤 【淳】を演じて考え方というか“自分にもこういう部分があるんだな”と。役を通して気付かされたところもありました。孤独な感じとか、このお仕事をさせて頂くと凄く孤独を感じることも多かったりするんです。でも実はもっと視野を広げてみれば手を差し伸べてくれる方々がたくさん居る、その手が温かい手なのか冷たい手なのかはわからないけれど手を差し出してくれている人が居るんだと。そのことを【淳】を通して感じていました。
―― では伊藤さんにとってどういう映画になりましたか。
伊藤 宝物、宝物以外なにものでもないです。この先も演じていくうえで、この映画で経験したこと、見させてもらったものとか、ずっと心の中に大事に大事にしまって、ここから歩んでいきたいと思います。
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 岡本英理
ある港町、専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男。両親は埋立て用の土砂をガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ませながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らない人物のものだった。
脚本・監督:阪本順治
出演:伊藤健太郎、小林薫、余貴美子、眞木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司
配給:キノフィルムズ
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