Jun 03, 2022 interview

伊藤健太郎×小林薫×余貴美子が語る 『冬薔薇(ふゆそうび)』にみた“差し伸べられた手”

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俳優・伊藤健太郎の映画復帰作を撮ろうーー。
そんな想いから動き出したプロジェクトに賛同した阪本順治監督が書き上げたのは、居場所が無い青年と同じ想いを抱える大人たちの行く末を描いた人間ドラマであり、オリジナル脚本によるものだった。それは阪本監督が伊藤健太郎と向き合って交わした時間の中から生み出されたものであり、主人公・渡口淳は、伊藤健太郎と阪本監督自身の内面にある弱さを映し出したものかもしれない。そんな淳を取り巻く大人たちにはベテラン俳優がずらりと顔を揃えている。父親役には小林薫、母親役は余貴美子、その他、ガット船の乗組員には石橋蓮司、伊武雅刀、笠松伴助、そして淳を裏社会へと誘う不良グループには永山絢斗と毎熊克哉、その他、河合優実、坂東龍汰、眞木蔵人が参加し、見事なセッションを映画で魅せてくれる。

今回は、主演の伊藤健太郎さんと両親役の小林薫さん、余貴美子さんに、『冬薔薇(ふゆそうび)』での出会いと映画から感じ取ったことを伺います。

―― 阪本監督がインタビューで「ベテラン俳優と共演することで伊藤健太郎さんご自身の刺激になるのではないか」とお話されていましたが、実際に大先輩とお仕事をご一緒されてみていかがでしたか。

伊藤 刺激だらけの毎日でした。

 私たちの前では、言いにくいよね(笑)。

伊藤 本当に皆さんの存在感、説得力が凄いんです。何もしていなくてもカメラの前に立っているだけで説得力があるというか。その領域には自分はまだまだ達していないし、雰囲気さえ出すことも出来ないんですが、皆さんと同じ現場にいるだけで凄く勉強になりました。

―― 小林薫さんは今回初めて阪本順治監督とお仕事をされたとのことですが、阪本監督から「飲み仲間だった」とお聞きしました。

小林 お仕事をご一緒するのは今回が初めてでした。飲み仲間と言っていいのかわかりませんが、何度かお酒を飲む機会がありました。それまでオファーはなかったので役者として認められたのかなぁ‥‥単純に嬉しかったです。

―― 阪本監督のオリジナル脚本を読まれた感想を教えて下さい。

余 こんなにも救いのない、誰も幸せにならない、それでも生きていく。どうしようもなくなった【淳】も差しのべた手を握る。どんな人生でも生きる執念がある。「わかる、わかる」という感じでした。阪本監督は結婚をしていないのに、あのような夫婦の会話を書けるんだから頭の中を見てみたいとも思いました。

監督とは『傷だらけの天使』(1997年)『新・仁義なき戦い。』(2000年)と3作目になりますが、お話したのは今回が初めてだったんです。前2作の登場人物は心の荒れている人間が多かったので、監督もなんだか怖くて‥‥。だから今回ご一緒してとても優しい方だったんだと思いました(笑)。

小林 最初に台本を読んだ時は、元の木阿弥みたいな感じで【淳】が最初の世界に戻ってしまうような印象を受けたんです。「登場人物が全然アップデートしないのか?それって映画としてお客さんはどう受け止めるんだろう」と疑問を持ちました。決定稿になっても少しわかりやすくはなっていたけれども大きく動くことなく「少し変わったね」みたいな感じで、モヤモヤ感が残る状態でした。台本という2次元の世界では、監督の脳みその中がよくわからなかったけれど試写を観た時に「いい映画だ」と思って、伊藤くんにも伝えたんです。そしたら伊藤くんはまだ観てなかったらしくて「そうですか」って(笑)。

映画になったものを観て、初めて「そういうもんだよなぁ〜」と。本を読んでいる時には、もしかしたら僕自身が『冬薔薇(ふゆそうび)』の登場人物になっていてもおかしくない、もう一つの人生があったかもしれないと思えたものだから、妙ないい方かもしれないけど、映画を観て感動しちゃったんです。そのことは監督にもお伝えしました。オファーを受けた時はモヤモヤ感が確かにあったけれど「映画って、やっぱりこういう風になるんだ」と思って、そういう意味では自分の読み取り力の無さに気付かされました。

―― 余さん演じる【お母さん(渡口道子)】と伊藤さん演じる【息子(渡口淳)】との改札口でのシーンが目に焼き付いています。お母さんがちょっと触れますよね。

伊藤 お母さんが息子に対して、唯一触れているシーンですよね。お母さんに「背筋がゾっとしたことないでしょ」と言われた時のお母さんの顔と状況を含め、その瞬間、実際に背筋がゾっとしました(笑)“凄く引き締まるシーン”という印象があります。

余 監督は何も言わずカメラの横に居てジッと見て下さっています。監督のイスやモニターがあるわけでもなく、ジッと見ているんです。ドキドキするけど安心感があります。撮影当時に「背筋がゾっとしたことないでしょ」という台詞を監督が書いた理由に気付けたら良かったと今は思っています。

先ほどその理由を始めて知ったんですが、監督は学校に行きたくなくて、怪我をしたくて自分で頭をガンガン殴ったり、階段から飛び降りたりしていたそうなんです。撮影前に伺っておけばよかった、と思ったエピソードです。その話を知っていたらもっと違う表現方法があったのではないか?と思っています。

―― 伊藤健太郎さんは監督から色々とお話を聞いていたので、身体に沁みついていたのではないですか。

伊藤 そうですね。でも自分の頭を殴っていた話は知らなかったです。監督の生い立ちの話は伺っていたので「背筋がゾっとする経験」とは、そういうことではないかと何となく台本を読んでいる時に思っていました。