「新しい人間」としての怪物の誕生
池ノ辺 この作品に出てくるフランケンシュタインの怪物は、これまでのイメージとずいぶん違いました。
デル・トロ 今までの怪物は、ひどい交通事故にあったかのような状態でしたよね。出血していたり縫合の痕が生々しく見えていたり。でも今回私は、そういうイメージではなく、「新しい人間」というイメージで考えました。それはまだ母親のお腹の中にいる胎児のような、半透明の、あるいは生まれたばかりの色味の薄い存在です。しかもヴィクターはアーティストとしてのセンスもあるので、ああいう縫合線をたくさん残したものではなくて、もっと美しい存在をつくろうとするだろうということも考えてメイクやデザインを作り上げていきました。
池ノ辺 怪物を演じるジェイコブ・エロルディは本当に素晴らしく、特に目が印象的でした。
デル・トロ 最初、この役はアンドリュー・ガーフィールドが務める予定だったんです。ところが、ストライキが重なったりしてスケジュールが合わなくなり、撮影に入る9週間前に降板することになりました。それで急遽選び直したわけですが、実は私は役者を選ぶときには必ず目で選ぶんです。それはジェイコブだけでなく、オスカー・アイザックもミア・ゴスもそうです。そして、ジェイコブと話をしているときに、彼のお父さんが、スペインバスク地方のバスク人であり、カトリック教徒であることを聞いたんです。その背景があれば、この物語について、この物語の世界観、宇宙観をわかってくれるだろうと思いました。実際ジェイコブは、このキャラクターについて、「僕以上に僕自身だ。本当に自分が心の中で感じていることだ」と言っているので、選んだのは間違っていなかったと思います。

池ノ辺 怪物を演じるにあたっては、監督は彼にどんなことを伝えたんですか。
デル・トロ まずは「無」の境地にあることを求めました。禅のようですね。そしてそのために犬の様子をよく観察するように言ったんです。犬というのは、ある瞬間にはすごく幸せそうにしているのに、次の瞬間には闘いのモードになり、すぐにまたハッピーになったりしていますよね。それを見てほしいと思いました。また、怪物が死から甦って再び生まれるときの動きについては、日本のいわゆる「舞踏」が参考になるだろう、そういう話もしました。
池ノ辺 具体的でありながら、難しい要求でもありますね。
デル・トロ 怪物が生まれたばかりの赤ん坊の状態であるというのはどういうことか、それもずいぶん話しました。つまり生まれたての赤ん坊というのは、周りのすべてが自分にとって新しい、未知のものです。そして最初はふたつの言葉、つまり「ママ」と「パパ」だけで世界が成り立っている。この怪物にとってはそれが「ヴィクター」なんです。「ヴィクター」が彼にとってのすべてで、昼も夜も、寒いも暑いも良いも悪いも、すべて「ヴィクター」で表現されるのです。そういう何もない状態から段々と大人の男性へと成長していくのだと、撮影に入る前に、ジェイコブとはそんな話をずいぶんしたんです。実際撮影に現れた彼は、すでに完璧な状態でした。
