パーカー大佐との複雑な関係とエルヴィスの悲劇
ーー エルヴィスと、彼を支えると同時に、彼を利用し利益を搾り取ったパーカー大佐との関係というのは、どのように捉えていましたか。
エルヴィスの人生において大佐は悪人であると言われていますが、そう言い切ってしまうのは、短絡的に捉えすぎているのではないかと思います。結局エルヴィスは彼のもとを去ることはなかった、その理由が、僕にも少し理解できるような気がするからです。
ーー それはどういうことですか。
一つにはエルヴィスの彼に対する忠誠心。エルヴィスは、自身のキャリアの初期に大佐がしてくれたことに対する恩義を、忘れることはできなかったのだと思います。それから、彼の人生の中で、ターニングポイントと思われるような瞬間に、大佐が果たしてくれた役割が大きかったのではないでしょうか。
ーー 例えば?
その一つは母親を亡くした時ですね。エルヴィスと母親とは、癒着と言ってもいいほどの強い結びつきがあって、ですから母親を失った時に、エルヴィスは本当に身を裂かれるような思いをしています。父親とエルヴィスとの関係は、もちろん愛はあったのですが、父親は自分の気持ちを表に出すことが苦手で、そういう意味では感情の面でエルヴィスの喪失感を埋めることはできなかった。
そんな時に大佐が、何をすればいいのか教えてくれる、僕がずっとそばにいるよ、僕が守ってあげると言ってくれたわけです。結局、大佐だけでなくプリシラとの関係も、そうした感情的に依存してしまうようなものがあったのではないでしょうか。
ーー エルヴィスは、自信もあったでしょうけど不安もあったでしょうね。
父親や友人たち、そしてその家族を養わなければならないというプレッシャーもあっただろうし、何よりエルヴィスであるということのプレッシャーもあったと思います。
兵役を終えた後、2本の映画を撮っていますが、そこでのエルヴィスは歌わないのです。シリアスな役者として活動したかったのです。結果、その映画は興行的にうまくいきませんでした。それに対してパーカー大佐は、歌っている君がみんなは見たいんだと、歌うことを勧めます。そこで、それでも自分は歌ではなく演技を見せたいんだ、と続けることもできたと思いますが、愛する者たちを養っていけなくなるんじゃないか、家を失うんじゃないか、皆に忘れられてしまうんじゃないか、そういう焦りから、エルヴィスは結局、大佐に従ってしまいます。彼はそういう力を持っていたんですね。
エルヴィスと大佐というのは複雑な関係で、大佐はエルヴィスに大きな愛は抱いていたとは思いますが、一方で大佐が彼を利用したということも確かにあると思います。これは僕個人の思いですが、大佐がそういう人間だったために、エルヴィスをクリエイティブな面で伸ばすことができなかったというのはとても残念です。本当は日本など海外でも公演したかったのに叶わなかったわけですからね。それは大きな悲劇だったと思います。