Apr 09, 2019 interview

ガス・ヴァン・サント監督インタビュー:名優たちとの思い出、新作に込めた想いと“人生を変えた”映画

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“人生が変わった”“大きな衝撃を受けた”映画

──『マラノーチェ』や『ミルク』、そして本作など、実在する人物を扱った映画を制作する時に心がけていることは何かありますか?

実在の人物を描く際には、まずその人のことをよく知る人々に会って、話を聞くようにしています。例えば『ドント・ウォーリー』だったら、ジョンが亡くなる前の期間を一緒に過ごしていたジョイ・キャンベルという人に話を聞いたんですけど、本には書かれていないようなことを教えてくれたんです。劇中で(恋人役の)アヌー(ルーニー・マーラ)がジョンの体を洗うシーンが登場しますが、あれはジョイから聞いた話を参考にして撮ったものです。ジョンは自分の体が車のように吊り上げられて洗われることに耐えきれなかった。そういったことを映画に盛り込むことでリアリティをもたらすことができるんです。だけどリアリティだけにこだわるのではなく、エピソード自体を面白く歪曲していくことで、ジョンらしさに溢れた映画になっていきます。

ただ、『ミルク』の場合はアメリカでマイノリティのために闘った政治家ハーヴィー・ミルクの人生を映像化しているので、よりリアリティを追求して制作しました。リサーチしたものの中から、より良いものをピックアップして映画に落としこんでいくという作り方をしています。

──最後の質問になりますが、監督の人生に大きな影響を与えた映画を教えていただけますか。

人生を変えてしまうような素晴らしい映画はたくさんあります。それはテーマや政治的なメッセージというよりも、撮影方法や伝え方が素晴らしいという意味です。それを最初に感じたのは、14歳の時に学校で観た『市民ケーン』(41年)。まさにこの映画で人生が変わったと言えます。心理学的な要素を映画というコンテンツで表現できるんだということを、私に教えてくれた作品でもあります。以来、映画にハマってたくさん観るようになりました。

その後、大きな衝撃を受けたのが、タル・ベーラ監督の『サタン・タンゴ』(94年)。上映時間が7時間18分もある映画なので、なかなか話が進まないんです。部屋で男が酒を飲んでいるだけのシーンが1時間も続くんですよ(笑)。でも不思議とすごく魅了されてしまったんです。気合いを入れて観ないと寝てしまうかもしれませんが、良かったらぜひ観ていただきたいです。

取材・文/奥村百恵
撮影/名児耶 洋

プロフィール
ガス・ヴァン・サント

1952年生まれ、ケンタッキー州ルイビル出身。『マラノーチェ』(86年)で映画監督デビュー。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)ではマット・デイモンとベン・アフレックがアカデミー賞脚本賞、ロビン・ウィリアムズが助演男優賞を受賞。『エレファント』(03年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールと監督賞に輝き、『ミルク』(08年)ではショーン・ペンにオスカー主演男優賞をもたらした。他の作品に『誘う女』(95年)、『追憶の森』(15年)など。ミュージシャンとしてもアルバムを2枚リリースしている。

作品情報
『ドント・ウォーリー』

オレゴン州ポートランド。アルコールに頼りながら日々を過ごしているジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)は、自動車事故に遭い一命を取り留めるが、胸から下が麻痺し、車椅子生活を余儀なくされる。絶望と苛立ちの中、ますます酒に溺れ、周囲とぶつかる自暴自棄な毎日。だがいくつかのきっかけから自分を憐れむことを止め、過去から自由になる強さを得ていく彼は、持ち前の皮肉で辛辣なユーモアを発揮して不自由な手で風刺漫画を描き始める。人生を築き始めた彼のそばにはずっと、彼を好きでい続ける、かけがえのない人たちがいた……。
原作:ジョン・キャラハン
監督・脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
出演:ホアキン・フェニックス、ジョナ・ヒル、ルーニー・マーラ、ジャック・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン
配給:東京テアトル
2019年5月3日(金・祝)公開
© 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
公式サイト:www.dontworry-movie.com

ガス・ヴァン・サント監督が影響を受けた映画

『市民ケーン』(41年)
オーソン・ウェルズが25歳の時に発表した処女作で、オーソン本人が製作・脚本・監督・主演を務めている。“バラのつぼみ”という言葉を遺して亡くなった新聞王ケーンの生涯を、新聞記者が彼の関係者に取材して証言を集めるという回想形式の作品。斬新な構成と演出が評判を呼び、“歴史上、最高の映画”と語り継がれている。
 
『サタン・タンゴ』(94年)
ハンガリーの名匠タル・ベーラ監督が4年の歳月をかけて完成させた作品。原作は世界的権威のある英文学賞のブッカー国際賞を受賞したクラスナホルカイ・ラースローの同名小説で、全編約150カットという驚異的な長回しで制作された。公開当時からずっと映画批評サイト「ロッテントマト」で100%の評価を維持し続けている。。