カンヌが称賛した若き日本人監督の映画。それは第77回カンヌ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞を受賞した山中瑶子監督によるオリジナル脚本の作品『ナミビアの砂漠』(公開中)です。主演は、その演技力の高さから、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで多数の作品に出演する河合優実。彼女が演じる、自分勝手だけれど魅力的な【カナ】が繰り広げる、虚無感からの自分探しの物語には2人の男性が登場します。ひとりは寛一郎演じる優しいけれど退屈な男【ホンダ】、もうひとりは金子大地演じる自分本位なクリエイター【ハヤシ】。
今回は、【カナ】に翻弄されながらも闘う男【ハヤシ】を演じた金子大地さんにお話を伺います。
――面白い映画ですよね、笑いっぱなしでした。金子さんは初号で『ナミビアの砂漠』を初めて観た時はどう感じたんですか。
初めて観た時は、自分の芝居が“大丈夫かな?” と気になって色々とチェックしてしまって、客観的に観られなかったんです(笑)。それで2回目はカンヌ国際映画祭の上映で観たんですけど、“面白い”と思いました。とにかく河合(優実)さん演じる【カナ】が魅力的で、カップルの立場が変わっていく感じとか、自分が演じる【ハヤシ】が【カナ】に問い詰められる部屋でのシーンとか、カンヌで映画を観ているお客様が笑っているところでは“ここで笑うんだ”という驚きもありました。それは自分自身にとって“ここは面白いシーンなんだ”という発見にもなりました。
あと、【カナ】と【ハヤシ】が向き合ってハンバーグを食べるシーンは、僕自身は勝手に【カナ】に対して愛がある感じで芝居をしていたんです。「好きだよ」って感じではないけど、ハンバーグを食べている【カナ】が親と電話をしている姿を見て、【カナ】を絶対に幸せにしようという想いで芝居をしていました。でも観客側からするとあのシーンはそう見えていないんです(笑)。それが面白いと思いました。自分が演じている時の気持ちと観ている人の受け取り方、捉え方が全然違っていたんです。そもそも正解はないんですけど、そこが映画の面白さでもあるとも思いました。特に『ナミビアの砂漠』は、観る人によって違う印象を持つ部分が、結構あるのではないかと思っています。
――私は1回目と2回目で金子さん演じる【ハヤシ】への見方が変わりました。1回目の時は【ハヤシ】は自分本位というか、自分のことが好きで、自分のことでいっぱいいっぱいの人に見えました。たぶん【ハヤシ】は【カナ】とは結婚しない男だとも。でも2回目を観た時に“【ハヤシ】なりに頑張って【カナ】と居るのではないか?”と思うようになって‥‥。
そうなんです。僕は【ハヤシ】のことをまったくクズな感じでは演じていないんです!【カナ】としっかり向き合っている良い彼氏だと思って【ハヤシ】を演じていました。だからこそ“そういう見え方なんだ”と思って‥‥、本質をちゃんと観て欲しいと思いました(笑)。
――確かに。1回目は【カナ】に夢中になって観ていて、2回目になって冷静に観ていると“あれ?【ハヤシ】頑張ってるじゃん”って。でも何故、【ハヤシ】は家を出て行かなかったのですか?
それは執着というか、何だろう‥‥やっぱり根底にあるのは【カナ】のことが好きだからかと。
――え〜っ!(驚)私は、【ハヤシ】は【カナ】に彼氏と別れさせて、自分と同棲するまでの関係を持ったことからの責任感だと思ってました。
それもあると思います。罪悪感というか、罪の意識。過去のこととか、罪滅ぼしというか、確かそんな台詞もあったと思います。罪の意識も絶対にあると思います。
――そういったことについて、山中瑶子監督とは話し合われたのですか。
いいえ、ありませんでした。
――山中監督は脚本を読んでもらったら、演じ方については役者に任せるということですかね。
任せているというか、その時の感情について確認作業のようなものはあまりなかったです。僕自身は「この役はこうで」と理詰めで確認し合う必要はないと思っているというか、映ったものが全てだと思っているんです。
僕自身もこれまで恋愛をしてきて、相手を傷つけてしまった経験もあるので、そういう罪の意識というか、秘密がバレることで起こる罪の意識を理解出来るので、何かしらひっかかっている部分が【ハヤシ】にはあると思いました。