――確かに『サユリ』の中の家族の食卓は庶民的でそれぞれの個性も見えました。今回は弟【神木俊】役の猪股怜生君とも共演シーンが多くありました。これまでは南出さんが猪股君と同じ子役という立場でしたが、子役の方との共演はいかがでしたか。子役を経験していたからこそ、関わるうえで意識していることはありますか。
僕は子ども心を大切にしたいというか‥‥。僕もまだ子どもなんですが、自分より年下の子には何回も聞くようにしています。僕は子どもって語彙力というのが、やっぱり少ないものだと思っています。僕も全然なかったので、伝えたいことが二転三転してしまうんです。人を仲介していくことによってドンドンと変わっていってしまう。伝言ゲームのようなことが現場でもあります。
だからこそ“こうして欲しい”と思っている当事者(発言者)の言葉を大事にしないといけない。だから【俊】ともなるべく一緒に居るようにして、色々と話しかけて、一つのことに対しても沢山聞き返していました。傍から見れば、煩わしくみえるかもしれませんが、僕としても本人(怜生)としても伝えたいことが間違いなく伝わるので、とても大切なことだと思います。僕もそうですが、幼い頃から芸能界に居る子どもは、色々な言葉に触れてきているので喋る能力は絶対にあるんです。でも子どもなので、言葉は知っているものの使い方がまだまだわかっていないことがあると思うんです。だからこそコミュニケーションと反復が一番大事だと思っています。
――それはご自身がやってもらった経験からですか。
そうですね(笑)。僕も何回も何回も聞き返してもらいました。当時のことを今振り返ってみると、一生懸命に伝えようとしていたのですが、その伝え方が凄く雑だったと思います。そんな時に真っ直ぐに意見をぶつけてくれて、僕の発言が少し変だということを言ってくれる大人は大事だと思いました。そんな大人たちの言葉は僕の成長に繋がっていて、今も関わってくれています。
――凄いですね。色々なことをいっぱい考えながらやって来て、今現在ここに居るのですね。
元々はスチールモデルをやっていたんです。3歳か4歳ぐらいから始めたので、そこから15年です。
――色々な葛藤があったと思います。これまでの芸能生活の中で、南出さんにとって成長していく自分を見つけた瞬間はありますか。
“自分はやっぱり役者の端くれなのかな?”と思ったことがあります。例えば、寒くて体が震えている時でもカチンコが鳴るとスーッと体の震えが治るんです。“自分ではない何かになれる”という瞬間。僕は自己評価が低いほうなんですけど、そういう時は“今は憧れている大先輩たちの仲間に少しでも入れているのではないか?”と思います。演技をしてカットがかかった瞬間も“違う自分になれていた”と思えた瞬間のあの感覚が好きなんです。だから役者をやっている。大きい声とかも普段は全然出ないんですけど、カメラの前だと元気に大きな声も出せるんです(笑)。叫ぶのも“声が裏返らないかな、叫べるかな、大丈夫かな”と心配しながらやっているくらいでした。今回は【則雄】という役を借りてでしたが、誰かの名前を借りると全力を出せる人間なのかもしれません。そんな風に思います。
――いつか演じてみたい役は?と聞いた時、『日本で一番悪い奴ら』(2016)の綾野剛さん演じる北海道警の刑事・諸星要一役と答えてましたが、この映画を観られた理由はなんですか。
実は綾野剛さんの声の使い方や演技をずっと勉強しているんです。僕に演技を教えてくれている先生が「演技には色々なものが大事だけど、声も意外と注目されている。声は無意識的に選ばれることが多いから、逆にそこを意識的に変えることによって俳優として売れることもある。ずっと俳優を続けている人は声が魅力的な人も多い」とお話されていたんです。それを聞いてから色々な俳優さんを見ていく中で声の使い方が上手な人だと思ったのが綾野剛さんなんです。綾野さんはドスの効いた声からちょっとおちゃらけた声まで、細かく演じ分けをされているんです。