Jun 10, 2024 interview

杉野遥亮インタビュー 自分とは違う性格だからこそ演じるのは簡単ではなかった『風の奏の君へ』

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「バッテリー」の作家、あさのあつこが自身の故郷である岡山県美作地域を舞台に原案に、美作で青春時代を過ごした『NANA』(2005)の大谷健太郎監督が脚本、監督を務めた映画『風の奏の君へ』。女優であり、ミュージシャンでもある松下奈緒を主演に迎え、美作に戻ってきたピアニストと山村隆太(flumpool)と杉野遥亮演じる茶葉屋の兄弟との再会から、夢中になることで発揮される「真の力」を描いた人間ドラマです。今回は本作で兄の元恋人【里香】に恋心を寄せる弟【渓哉】を演じた杉野遥亮さんにお話を伺います。

――今回の役は茶葉屋の息子ですが、演じるにあたり事前に準備されたことはありますか。

凄く準備するという感じではないのですが、撮影が始まる何日か前に岡山県美作に入らせてもらったので茶畑を見に行ったり、お茶屋さんに行って軽く作法を習ったりしました。あと映画の中で【茶香服(ちゃかぶき):お茶のテイスティング】をするのですがあれが結構大変で‥‥、何と言えばいいのか作法があって“何となくそれっぽく見えればいいな”という感じでした(笑)。

――お茶を飲み分けるところのシーンは圧巻でした、たくさん、お茶飲まれましたよね。

はい、飲みました。確かにお茶それぞれ味が違うんです。僕はクッキーみたいな味がした八女茶が好きでした。

――結構、味が違うんですね。

違いますね。撮影時は、凄くお茶にハマリました。農家の方が言うには、お茶には珈琲と同じ作用があるので、珈琲の代わりにお茶を飲む人が多いそうです。岡山でお茶を飲んでいて凄くホッとしたので東京にも持ち帰りました。でも中々‥‥手間も時間もかかる淹れ方は実際には続けられなかったです(笑)。

――岡山弁はいかがでしたか。

岡山弁がわからなかったので、台本を頂いた時に大谷健太郎監督に「方言の指導はないんですか?」「音声とかありませんか?」と聞いたんです。そしたら、大谷監督ご自身の音声が送られて来たんです。そこには大谷監督自身の気持ちや情緒が込められていたので、参考にするには難しいなと思いました(笑)。

――つまり、台詞に感情がそのまま音声として入っていたのですか。

そうなんです。今まで方言を用いる現場で頂いていた音源とテイストが全然違っていたので驚きました。大谷監督の気持ちがそのまま台詞に入っていたので「難しいです。これでは出来ないです」と言いました。監督の役への思い入れが相当だったみたいです(笑)

――それを組み立てて【渓哉】という役を演じられていったのですね。【渓哉】という役はこの映画の肝(中心)だと思いました。

蓋を開けてみればそうでしたね。“僕の役が一番撮影シーンが多いんじゃないかな”と思っていました(笑)。

――実際、大谷監督は【渓哉】に自分を投影したと仰っていました。彼の感情の動きがじっくりと映し出され、【渓哉】視点から主人公でピアニストの【里香】を知っていく物語になっていました。

感情の変化はしっかりと見せたい、という思いはあったのでそこは通すようにしました。脚本を読んで岡山のPR映画だけにはしたくなかったんです。自分もちゃんと“この作品に出演した”という意味が欲しかったんです。感情の流れも詰める所は詰めて、見せる所は見せていかないといけないと思って演じていました。台詞を変えたり、気持ちの確認など自分の中で整理をつけたりしながらの2週間の撮影だったのでアッという間でしたし、良い意味で疲弊もしました。

――演じるだけでなく、ものづくり体験もプラスされましたね。

そうでしたね。でも、それは結果オーライで経験値になっていますし、楽しくもあったので良かったと思っています。

――松下奈緒さん演じる【里香】に想いを寄せるという役柄でしたが、松下さんとの共演で思い出に残っているシーンはどこですか。

一番思い出に残っているのは、松下さんが来ると大谷監督がほころぶことです。“松下さんが好きなんだな”と思いながら大谷監督を見ていました(笑)。松下さんとの共演シーンはわりと穏やかに進むことが多かったです。それに【里香】が見ている人は、【渓哉】ではなく兄【淳也】の方だったりもしたので、撮影では一方通行な思いを感じていました。