―― (笑)工藤さんは、役者としても大先輩の光石さんに聞きたいことはありますか。
工藤:今回のお話もそうですが、どこに演じる役のヒントがありますか?どうやって役作りをしているんですか?
光石:今回の役は普通のおっさんだし‥‥自分と地続きだからねぇ。
工藤:え?そうですか。そんなことないです。
光石:役を演じるうえで注意する点は、監督を見て武田鉄矢さんを演じるかどうかは決めた方がいいね。そういうアドリブを入れ込む時はちゃんと考えて行うこと。
工藤:気を付けます。
―― 光石さんは監督に合わせて役のトーンを決められていくのですか。
光石:台本を読んでですね。今回の場合は本読みがありましたから、その時の皆の感じを見たり、現場に入ってからの感じかなぁ‥‥。役についてあんまり考えてなくて、台本を読んでイメージはしますけど、結局は現場の雰囲気ですね(笑)。
工藤:流石です!
―― 工藤さんは光石さんがこれまで出演されている作品の中で印象に残っている作品はありますか。
光石:答えに困る質問をしちゃ駄目だよ(笑)。ほら、オドオドしているじゃない。
工藤:(笑)たくさんの作品に出演されているので迷っているだけです。松重さんと光石さん、お2人のシーンは本当に“『バイプレイヤーズ』だ!”と思いました。私がお2人と同じ作品に出演させて頂いていることの凄さを感じていました。何てお伝えすればいいのかわかりませんが、本当に光石さんがかっこよくて‥‥かっこよかったです。
光石:しどろもどろだね(笑)。
工藤:最近『大阪古着日和』(2023)を観させて頂いたんです。YouTubeで「東京古着日和」を観ていたので、友人と一緒に観に行きました。その後、映画で光石さんが履いていたクラークスがかっこよすぎて思わず買っちゃいました(笑)。
光石:ヨッシャー!影響与えているね(笑)
毎回、楽しすぎて時間が過ぎて聞き忘れたことがいっぱいあったと反省する光石研さんとのインタビュー。工藤遥さんとの掛け合いも絶妙で3人で雑談をしているかのような時間を過ごしてしまいました。けれど映画は、北九州の寛大な空気が漂い、名優・光石研を愛してやまない監督による、長台詞を切り替えなしのワンショットで撮り切る手法が印象的な「人と向き合う」作品になっていました。それだけ役者の演技を信じ、人の魅力を信じていることが作品から伝わってくる『逃げきれた夢』。「その人物が魅力的であれば、他のことに目が行かない」という事実を突き付ける傑作でした。
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 曽我美芽
「いやー参ったよ。どうしようかね、これから」と、介護施設で暮らす父親に話しかける末永周平。北九州で定時制高校の教頭を務める周平は、定年を前にして記憶が薄れていく症状に見舞われ、途方に暮れると共にこれまでの人生を振り返っていた。そんな周平に、息子と同じ症状が既に進行している父は、何の反応も見せない。母は既に亡くなり、父は誰とも意思の疎通がとれなくなっていた。翌朝、家族や友人、生徒たちなど、これまでの人間関係を見つめ直そうと決意した周平は、まずは、ほとんどコミュニケーションのない一人娘の由真に、恋人はいないのかと話しかける。由真は父からの突然の干渉に驚き、「どしたん? なんかあったん?」と逆に問いかけ、「気持ち悪すぎなんやけど。どしたん? 死ぬん?」とまで訝るのだった。
監督・脚本:二ノ宮隆太郎
出演:光石研、吉本実憂、工藤遥、坂井真紀、松重豊
配給:キノフィルムズ
©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ
6月9日(金)新宿武蔵館、シアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
公式サイト nigekiretayume.jp