May 18, 2023 interview

宮沢氷魚インタビュー とても慎重に大事に役と向き合った『はざまに生きる、春』

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―― 友達や家族に性的マイノリティの人や発達障がいの人が居ると、何も感覚的に変わらないのに、そういう人と交わったことがない人はマイノリティの人に対して少し違った目線になる。その不思議な感覚を映画にすることで、もっと多くの人が生きやすくなれたらいいですよね。

その通りですね。多分、多くの人が難しく考え過ぎているような気もしています。発達障がい、ジェンダーアイデンティティ、マイノリティもそうですが、フィーチャーすることによって、その人が可哀そうとか、そういう事ではないんですよね。どんどん知ってもらうというか、知って本人たちがどう考えるかは別問題で「知らない、関心がない」が一番怖くて、皆それぞれ別々の人間ですから、「アスペルガー症候群ってよくわからない」と言う人も居ると思っています。

でも映画を観て「アスペルガー症候群についてもっと知りたい」だとか「アスペルガーの特性があっても素敵」と思う人も沢山居ると信じています。何か刺激を受けて、自分の意見を持つということが凄く大事な1歩だと僕は思っているので、「俺には関係ないから」ではなく、知ってもらえるだけでも意味があると思っています。

―― それに【屋内透】という主人公を通して、彼らのピュアさや感性の鋭さも描かれていました。『エゴイスト』もそうですが、今回もしっかりと当事者や専門家の方にお話を聞いて製作されたそうですね。

どの役もそうですが初めて演じる役というのは、知識がないですし、自分に出来るリサーチにも限りがあるので、自分で出来る部分は自分でやりますが、それ以外は実際に専門家の先生やアスペルガー症候群の特性を持つ方に来て頂いてお話を伺います。今回も色々な人の助けを借りながら【屋内透】という人物を作り上げていきました。

演じるという仕事を通して「知るということも大事」ですし、それが自分が演じる中で自信にも繋がっていくんです。何も知らないで演じるのと違い、自分の認識や知識がまだまだ薄くても“やれることはやって来た”ということだけでも自信を持って演じることが出来るんです。自分のお芝居に不安要素を持たない為にも準備は大事にしています。

―― 俳優をやる上で相当、色々な知識が入って来ますね。

入って来ますね。この作品をやらなければ、ここまで発達障がいについて知ることはなかったかもしれません。自分の身近な人も発達障がいですが、僕は彼の特性しか知らなかったんです。今回、色々な方にお会いして“こういう方も居るんだ”という発見もありました。そして人それぞれの考えもあることを更に知り、自分の中で発達障がいというものに対しての認識を豊富に持つことが出来ました。

そのことがとても嬉しかったです。『エゴイスト』の時はLGBTQについて友人から色々と聞いて助けてもらって、あの映画に挑みました。どの作品でもそうですが、その作品を経て、共演者やスタッフ、映画を観に来てくれた人から色々なフィードバックを得ています。そんな風に人間としての経験値、知識がどんどんと増えていくことが“役者をやっていて良かった”と思える瞬間でもあります。

―― そんな宮沢さんが現時点で指針にしている人物、俳優さんはいますか。

阿部寛さんです。阿部さんって物事に左右されず、きちんと自分を持たれていて、コメディも出来るし、かっこいい役もちょっと風変わりな人も演じられる。普段は「阿部寛」という人物のイメージが強いですが、役になると色々な役を演じきれる。そんなところを尊敬しています。かっこいいですよね。ああいう渋い俳優になりたいです。

実は何度か同じ会場でご一緒したことはあるのですが、話すタイミングが毎回なくって (笑) この間も「アジア・フィルム・アワード」(香港) の会場にいらしたので“今日こそ話そう”と思っていたのですが、先に帰られてしまっていて‥‥お話する事が出来ず残念でした。僕にとっては「MEN’S NON-NO」の先輩なんで、いつかはちゃんとお話したいです。できることならコメディとかで共演したいです。『テルマエ・ロマエ』(2012) 、「結婚できない男」(フジテレビ / 2006) とか大好きなんです。