コロナ禍に入り、命の尊さについて今一度、目を向けることとなってしまった現代。だからこそ東日本大震災の体験を綴った齋藤幸男氏の著書から着想を得て「生きること」をテーマに『有り、触れた、未来』が誕生しました。本作は若手俳優たちがプロデューサーを務めるUNCHAIN10+1と『グッモーエビアン!』の山本透監督による企画から生まれた脚本であり、愛する人を失った女性や、30歳を過ぎてもボクシングを続けるプロボクサー、末期癌と闘う女性、劇団員の若者たち、自然災害で家族を亡くし自殺願望を持つ女子中学生など、様々な状況の人々を描いた群像劇。そんな「命」の輝かせ方を綴る本作で主演を務めた桜庭ななみさんに今回はお話を伺います。
―― 愛する人を突如、失った元バンドマンで保育士[佐々木愛実]という女性を演じられましたが、出演を決めた理由を教えて下さい。
脚本を読んでいて、今、この時に作る意味のある作品だと思いました。それに山本透監督にお会いした時にこの作品への熱い想いをお聞きして心が動かされました。この映画は生きる力を貰える作品だと思うんです。そういう作品を皆さんにも「届けたい、届けられたら」という想いで出演させて頂きました。
―― コロナ禍になって映画やドラマの撮影が止まったり、映画館は休館になったりと一時期、仕事がストップせざる得なくなりました。当時、桜庭さんはどう思われながら過ごされていましたか。
エンターテインメントはどうしても一番最後にされがちなので、それが凄く寂しかったです。でもエンターテインメントは色々なパワーを貰えると思うし、私自身もドラマや映画などで色々な気持ちを動かされた人間のひとりです。だからこそ“エンターテインメントは凄く大切なものなのではないのか”と思っていました。
今回の作品にも演劇チームが登場します。映画ではコロナは描かれていませんが、彼らの存在も含めてコロナ禍の状況もこの映画の中で伝えられているのではないかと思っています。
―― 東日本大震災の時も舞台挨拶や華やかなイベントなど自粛になりましたね。
止まりましたよね。あの時は、ちょうどドラマの撮影中だったんです。だからドラマの撮影が再開した際の不安というか“再開した時、再開前に演じた役と同じ気持ちで出来るかな?”みたいなことを考えていました。
―― コロナ禍では、スタッフ、キャストの皆さんは毎回PCRチェックをしないといけないなど、かなりセンシティブな状況だったと思いますが。
確かにそうですね。でもコロナ禍の中でも、リモートドラマを作ったりするなど、新しい事に挑戦していました。テレビも再放送が多くなり、新たな作品が作られないことに寂しさを感じることもありましたが、私はすぐに再開すると信じていました。でももし、誰かに会うことが叶わなかったあの2カ月間、不安の方が大きかったとしたら、きっと辛いことになっていたと思います。
―― そんな“信じること”を大事にする桜庭さんだからこそ、初のエレキギターも出来たのですね。
ギターは手の形や楽譜の読み方を教えてもらって、とにかく家で練習あるのみでした。褒められると人ってテンション上がるじゃないですか。だから私もレッスンから1週間後のお稽古で「褒めてもらえたらうれしいな」と思いながらめちゃくちゃ練習しました(笑)
―― 手元もしっかり映され、演奏しながら歌も歌うとはハードルが高いですよね。
ボイストレーニングもしましたが、歌は特に難しいです。映画では私たちのバンド演奏以外にも、太鼓が入ったり、演劇のシーンが入ったり、それらが重なった時は本当に感動しました。