「日本近代詩の父」と言われる萩原朔太郎の娘、萩原葉子の同名小説を映画化した『天上の花』。主人公である詩人【三好達治】を演じるのは東出昌大、彼が16年4ヶ月思い続けた朔太郎の末妹【慶子】にはNHK連続テレビ小説「エール」の入山法子。脚本には五藤さや香と『火口のふたり』の荒井晴彦。そして監督は『いぬむこいり』の片嶋一貴。
戦争に翻弄される詩人が愛するあまり妻に憎悪を抱き、崩壊していく姿が越前三国の淋しい一軒家と共に映し出されていく。今回は、そんな難役に挑んだ入山法子さんにお話を伺います。
―― 出演のきっかけを教えていただけますか?
「【慶子】役で出演して欲しい」とオファーを頂きました。キャスティングが難航していたらしく片嶋(一貴)監督の古くからの友人でキャスティングをされている方が私のことを見て下さっていて「入山さん、お着物も似合うし、どう?」とお話されたのがきっかけのようです。そのキャスティングの方は、朝の連続ドラマ『エール』でもキャスティングして下さった方で『エール』で演じたカフェの女給姿の印象が残っていらしたようで「着物なら」ということで声をかけて下さったようです。
―― 【慶子】というキャラクターについてどう思われましたか。
“なんて不器用な人だろう”と思いました。なんでそんなふうにしか言えなかったんだろうと‥‥。【三好(達治)】に対してもそうですが【慶子】の母親との関係が一番心に引っかかっていました。母に言われるがままに3回も結婚しましたし、そういう所から彼女の生きづらさがずっと続いているようにも思えて“母親との関係性がどうだったのか?”を長い間、考えていました。
―― 映画では母親との関係は、あまり描かれていませんが、どのように構築されていかれたのですか。
想像するしかなかったです。後は兄である【(萩原)朔太郎】が話していることや萩原葉子さんが書かれた原作「天上の花-三好達治抄-」に書かれている萩原家の雰囲気を参考にしていました。【慶子】さんは、外見ばかりではなく、本当は自分自身を求められたかったのではないかと思います。
―― 映画を観ながら【三好】は時代に囚われてしまった男の人でもあり、籠の中の鳥である【慶子】は何処に行っても自由に過ごせないというか。
家から逃げられない、それこそ凄い事ですよね。言葉は強力ですが地獄ですよね。しかも撮影地は新潟県柏崎市だったんですが、目の前に広がる日本海を見て、“こんなにも寂しいんだ”と思いました。
―― 東出昌大さん演じる【三好】との対峙シーンで2人の演技が見えたと思う瞬間のエピソードはありますか。
それで思い出したのは、お燗を頼まれて、お燗をつけて、お酒を持っていったら「ぬるい。つけ直して下さい」と言われて、つけ直して持っていったら「熱い」と言われる一連のシーンの時ですね。台本ではお燗をつけて、お酒を持っていった【慶子】は立ち去り、【三好】は自分でお猪口にお酒をつぐというト書きでした。ところが、東出さんは自分でお酒をつがず、【慶子】に向かってお猪口をグイと突き出して来たんです。
その時“うわぁ!この人、突き出して来た”と思って(笑)もちろん2人の間で段取りとかしていなくて“あ、これだったんだ”と凄く思いました。激しいやり取りがある結構手前での撮影シーンでしたので“2人の関係性は、こういうことだったんだな”と思った記憶があります。
―― 私もあのシーンは凄く印象に残っています。【三好】が意地になっているのが見えますよね。
本当は立ち去る【慶子】だったはずが、【慶子】についでもらう展開に変わりました。現場で変更になったので面白かったです。凄くイラっとして、これが【慶子】自身の気持ちなんだ、と思いました(笑)。