May 05, 2022 interview

市原隼人インタビュー 子どもたちと本気で楽しんだ『劇場版 おいしい給食 卒業』

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―― 設定が80年代ですが、今回の甘利田先生の私服にもほくそ笑んでしまいました。

衣装には色々な候補がありました。全く想像出来なかったのですけどジャケットは「VAN」に決まりました(笑)。それに昔は帽子を後ろポケットに入れ、つばが折り曲がっている方をよく見かけていたので。わざと折り曲げたりしました。

―― 凄く細かい描写でちょっと懐かしかったです。こだわりを感じていました(笑)。

シーズン1の時から衣装合わせは何回もしていました。「透けている感じが凄くいいと思うので、シャツの中にはタンクトップではなく、ランニングと言えるものを選んだり。プロデューサーもネクタイを40本ぐらい持って来てくれました。メガネはメイキングを撮影している方のメガネが素敵でしたので同じものを買いに行ったり、時計は助監督さんがされていた、おじいさんの形見のものをお借りしたり。

シーズン1の撮影前日まで演技について、コメディタッチで漫画的にわかりやすいオーバーなリアクションにするか、もの凄く自然な芝居にするのか、どちらにするのか、綾部監督と電話で話したりしていました。なかなか決まらなかったのですが、結果的には振り切った形になりました。

―― 私の娘も笑っていて、抑揚ある表現やテンポ感がきっと子どもたちにも楽しいんですよね。見ていても飽きないというのも皆さんが作り上げたこだわりなんですね。

そうですね、それにしっかりと教養も入っています。見て学べたりもする学校の話なので、全く固くならずにコメディとして振り切っています。そして痛々しい面、親御さんたちが子どもに見せたくないというものはなるべく避ける、努力して作り上げていました。

―― 市原さんは『都会のトム&ソーヤ』(公開:2021年)にご出演されています。最近、子ども達に向けた作品の出演が続いていますね。

多いですね。自分が今、企画製作しようとしているものでも「子どもと一緒に何かしたい」と実は思っています。特に自分のアイデンティティ、固定概念にまだハマっていない13歳~15歳の子ども達から僕自身が学べることが凄く多いんです。「人間ってそうだよね、人間臭さってそういうものだよね」と気付かせてくれる。その空気感が僕は凄く好きなんです。子どもはやっぱり可愛いですね。子どもは本来は仕事をしなくていい立場ですから、遊びの延長線上に作品があると思ってもらい、現場に来たくなるような環境だけは絶対に崩さないようにしていました。

―― それはご自身が小学5年生の時にスカウトされ、『リリイ・シュシュのすべて』(公開:2001年)に中学3年生で出演されて感じたことなのですか。

まさにそうだと思います。『リリイ、シュシュのすべて』の岩井組に入っている時は、岩井監督がお父さん、プロデューサーがお母さんのような感覚で、よくプロデューサーの家に泊まりに行ったりもしていました。スタッフみんなでご飯を食べに行ったり、健康ランドに行ったり、人と人がより密になり繋がっていた時代でした(笑)。

1日でワンシーンとか、2日でワンシーンを撮ったり、当時は今よりずっとじっくり映画を撮っていました。丁度映画が変わっていく狭間を生きて来たような感覚でいます。僕はデビューした時の家族で作っていくような感覚が凄く好きなんです。企画がビジネスよりも夢が先行する世界。やらされるのではなく、「好きだからここに居るんです」と「皆に会いたいから、作品を作りたいから来る」という答えを聞きたい、どの現場でもそれを目指しています。

今回も子ども達にやらせるのではなく、子ども達がしっかりと楽しんで、本気で泣いて、笑って、悔しがれる、それほどの頑張るポイントをちゃんと提供出来る作品にしようと思っていました。そしてメリハリをしっかりつけ本番以外は肩書きを外して皆で楽しむ時間も共有して欲しい。

―― 映画を観てちょっとジム・キャリーぽいと思いました。子どもも大衆も楽しめる作品を作ってらっしゃるんですね。

今まではちょっと精神世界というか、そういう方向に役者としてドンドンいきがちでしたが、コロナ禍で改めて大衆に向けたエンターテイメントの必要性も力強く感じたんです。お客様に楽しんでいただけてなんぼだと。そう思っている時に『おいしい給食』と出会いましたので、このご縁はずっと大切にしたいと思っています。

―― コメディをやられて俳優として変わった部分はありますか。

余計に自分がわからなくなりました。それが楽しいのですが(笑)。 役者としては、コメディは笑わせるのではなく、笑われるものだと思います。ですからどんどん笑われていきたいと思っています。コメディでは滑稽な姿を見せますが、それは真剣に生きていないときちんと伝わらないものです。コメディも普通のものと変わらずその役を一生懸命生きていくことを心がけています。

岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』で映画主演を果たして以来、「ROOKIES」「猿ロック」『ボックス!』他、“ストイック”な役を演じることが多かった市原隼人さん。近年は『リカ 〜自称28歳の純愛モンスター~』といった純愛コメディや『都会のトム&ソーヤ』のような子どもたちの冒険ドラマなどに出演し、インパクトあるキャラクターをスクリーンに焼き付けています。一皮も二皮も剥け、老若男女が楽しめる演技まで切り替えられる市原隼人さん。これから更に沢山の若者たちに希望を与えていく予感がします。

文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦


作品情報
『劇場版 おいしい給食 卒業』

卒業式前の暴食。給食マニアの、給食愛のための、プライドを賭けた、最後の戦い――1986年、秋。黍名子中学で3年生の担任を持つ甘利田は、受験シーズンに突入するにも関わらず、給食の献立表のみを気にしていた。学年主任の宗方早苗はそんな甘利田に呆れつつ、彼女自身もある悩みを抱えていた。そんなある日、甘利田にとって受験以上に気になる事件が浮上する。給食メニューの改革が決定されたのだ。不穏な空気を察知した甘利田は、給食を守るために立ち上がる!果たして受験は?卒業は?進路は?そして、中学最後のうまそげ対決、勝者はどっちだ!?

監督:綾部真弥

出演:市原隼人、土村芳、佐藤大志、勇翔(BOYS AND MEN)、いとうまい子、直江喜一、木野花、酒井敏也、山﨑玲奈、田村侑久(BOYS AND MEN)、登坂淳一

配給:AMGエンタテインメント

©2022「おいしい給食」製作委員会

2022年5月13日(金) 全国公開

公式サイト oishi-kyushoku2-movie.com

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。ハリウッドスターから日本の演技派俳優まで、記者会見や舞台挨拶MCも担当。 全国のTSUTAYA店内で流れるwave−C3「シネマmag」DJであり、自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。また映画界、スターに詳しいこと、映画を心理的に定評があり、NTV「ZIP!」映画紹介枠、CX「めざまし土曜日」映画紹介枠 に解説で呼ばれることも多々。TOKYO-FM、JFN、TBSラジオの映画コーナー、映画番組特番DJ。雑誌「ブルータス」「Pen」「anan」「AERA」にて映画寄稿日刊スポーツ映画大賞審査員、日本映画プロフェッショナル大賞審査員。心理カウンセリングも学んだことから「ぴあ」などで恋愛心理分析や映画心理テストも作成。著書「2分で距離を知事メル魔法の話術」(ワニブックス)。
2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」(KADOKAWA)が発売 。 https://www.kadokawa.co.jp/product/302210001185/
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net