―― 【芙美さん】は悲しみを抱えながら人には見せないように、前へ進もうとしているキャラクターです。小林さんは、今までに未来が見えなくなって不安になってしまったことはありますか。
未来が見えなくなるのはしょっちゅうです(笑)。見えたり、見えなくなったりするのは、しょっちゅうありますよね。未来が見えなくなった時は、「ま、いいや。きっと良いようになるでしょ」みたいな感じで納得して、それを毎回、繰り返しています(笑)。
―― 【芙美さん】は人生の半分を過ぎた49歳という年齢ですが、小林さんはその歳から何か考え方は変わりましたか?
何も変わらないですね。あまり立ち止まって考えるようなタイプではないので‥‥。それでも50になって人生100まで生きるとしたらあと50年あると思ったり、でももし病気になったら当然もっと短いし、と思うと「やりたいことはやって、楽しんで生きなきゃ」とはザックリと思いました(笑)。
例えばですけど、この仕事をやらなくなってからの人生を“どうやって生きようか?一体何が出来るんだろう?”みたいなものは考えます。やっぱり、少しでも世の中の為になるようなことが出来たらいいなと思いますけど、それって何だろう?と思うし‥‥。今って、様々なことを発信する世の中ですよね。だけど「自分は、自分は」って感じの生き方は、私は苦手なんです。“苦手と言ったって、それって将来的にはどうなんだろう?慣れる時が来るのかな?”とも考えます(笑)。そんなことを色々と考えながら人生模索中です。
―― 小林さんは役者として表現したり、エッセイも書かれたりしています。小林さんが思う“表現”とは何ですか。
“使命”。やらなければいけないこと、そんな感じです。強制的な意味ではなく、役割というか、今の人生で「やりなさい」と言われているのかな?そんな気がしています。出来れば何も表現したくないんですけど(笑)。性格的にはあまり目立ちたくないので、役者も向いてないと思うんです。それでも、今生では、それも使命だと思って、やっています。
―― 10代の頃からずっとやり続けていらっしゃいますね。
気が付いたらこんなに長く仕事を続けられていた感じです。ありがたいことです。
―― 今の小林さんの人生の楽しみはなんでしょうか?
今の楽しみは、電車に乗ってハイキングにでかけたり、ピアノの練習をすることです。ピアノは2年ぐらい前から始めました。クラッシックの楽譜で基礎から練習しています。実は以前から楽器を何かやりたいと思っていたんです。でもそれに気が付いた時点で既に大人だったので“ピアノは難しいから無理かな?”とも思ったのですが“無理なりにゆっくりでも成長は出来るだろう”と思って始めました。
“ガチガチに指が固まる前に始めた方がいい”と40代の頃から思っていたのですが、色々理由をつけて、なかなか始められなかったんです。そんな中、たまたま、コロナ禍とタイミングは重なったのですが、近所にピアノ教室を見つけて、勢いで始めてみました。まったく弾けないところから始まっているので、少しずつでも上達していくのが楽しいですね。その内、ピアニスト・デビューしますよ(笑)。
撮影中もカメラマンからのポーズの依頼に照れ臭そうな言葉を発しながら、チャーミングな表情を見せていた小林聡美さん。平山秀幸監督が「永遠の少女」と喩えてしまうのもそんな飾らない姿やフラットな会話からなのだろうと納得しておりました。『転校生』の頃から大好きだった小林聡美さんは、今も昔も変わらずに私の憧れの「人間」。自分に正直に生きながら、私たちの代わりに思いを体現する役者。その証拠に『ツユクサ』の【芙美さん】は、私やあなたの分身にも見えてくるから。
文 / 伊藤さとり
写真 / 曽我美芽
主人公の芙美は、港のある小さな町で気の良い仲間たちとおひとり様ながらも健やかな日々を送っていた。しかしある夜、どういうわけか車の運転中に隕石にぶつかるというありえない出来事に遭遇する。その日を境に、芙美はうんと歳の離れた小さな親友・航平とのたわいもない時間や、この田舎町に越してきた気になる男性・篠田吾郎との運命的な出会いを通じ、生きていく中でのささやかな幸せを見つけていく。
監督:平山秀幸
出演:小林聡美、平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ、桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦 、泉谷しげる、ベンガル、松重豊
配給:東京テアトル
©2022「ツユクサ」製作委員会
2022年4月29日(金・祝) 全国公開
公式サイト tsuyukusa-movie.jp