―― そうなんですね。【花梨】は承認欲求に、【風子】は【花梨】との関係で存在意義に依存する・・・そういった意味で、監督がお二人に意見を聞きながら、役を一緒に作り上げたからこそ、演じた役に自分達が似ていると言っていたお二人には、依存してしまうものがありますか。
見上 依存というか、仲の良い友達はあまり広げたくない感じはあります。「いつもこの子たちといたい」みたいな感じがあって、そこから違う所にはあまり踏み出せないみたいな依存はあります。
―― 撮影現場では、いつも新しい出会いがあると思いますが。
見上 ホームを決めておきたいという感覚です。家はもちろんそうですが、仕事などで色々な人と出会って、それでも帰ってくる場所は「ここ」みたいな・・・友人関係でも左右されたくない感じです。
小野 私は「これがないと生きていけない」と思う物を作ることが凄く嫌なんです。20歳を超えて煙草やお酒を飲んでいた時期もありましたが、煙草やお酒は「これがないと生きていけない、やめられない」と言う人も居ますよね。その状況になるのが凄く嫌だったので全部やめたんです。友人も「この子がいないと駄目。この子がいなくなったら何をしていいかわからない」みたいになってしまうような人を作るのが嫌で・・・自分が愛せないから友達は本当に少ないんですよ(笑)。
―― 監督が花梨役を小野花梨さんに切望した意味が分かるというか、なんだか【花田花梨】に見えてきました。
小野 めちゃくちゃ面倒くさいんです(笑)
何処に居ても不安にならないし、誰かが居なくても全然大丈夫、それに携帯が無くても大丈夫です。何かに依存する、これが無いと生きていけないというものを作る自分に嫌悪感があるんです。【花梨】は携帯に依存はしているのでそこは自分と違うんです。きっと何かがあると思うんですけど・・・何ででしょう?
―― 小野さんはSNSもやっていないんですよね。
小野 やってないです。自分のホームみたいなものがあるのが「気持ち悪い」と思っちゃう。一人でも何処にでも行けるようにしておきたい感じです。めっちゃ秘密主義なのかも(笑)自分のことを誰にも知って欲しくないみたいな気持ちがあります。
―― 見上さんは、映画の撮影やプロモーションで小野さんを側で見ていてどう思いますか。
見上 どうなんだろう?秘密主義か・・・でも何かを隠している感じは全然しませんでした。
いつ会っても(小野)花梨ちゃんは、花梨ちゃんの感じがするから。もちろん私に見せていない部分もあるだろうけど、他の人に見せている花梨ちゃんを見ていても変わらないから。そういう意味では裏表があるとか、秘密主義な感じはしませんでした。でも家にいる花梨ちゃんは、もしかしたら全然違う感じなのかもしれないですね(笑)
―― 映画の中で動画をアップしたことで「いいね」の反応があったり、反対に文句を言われたりもして、SNSの狂気の部分が描かれています。お二人は人前に立つ仕事をされているので全然知らない人にも評価されてしまう状況にいます。嫌なことを言われたり、逆に褒められたり、心と折り合いをつけるのにどのような対処をされているのですか。
見上 私は評価基準を全部自分にしています。人が悪く言っていたとしても、自分が“いい”と思っていたらいいし、逆に人が褒めてくれていたとしても自分が“良くない”と思ったら良くない。評価基準を自分からぶらさないようにしようと思っています。
―― いつ頃からそう思っているのですか。
見上 気づいたらそうしていました。ある意味自我が強いというか・・・あんまり人(友達)のアドバイスを受け入れることが出来なかったです。“どうしてかな?”と思った時に人の話を全部聞いたうえで一度解釈して、でもやっぱり“こうだな”と自分の曲げられないところ、自分の基準があることに気づきました。だから、そういうところは変らずにいます。
小野 真剣にそれを伝えようとしてくれたものに関しては、真摯に受け止めようと思っています。SNSは短い文字で打ち込まれるものだからカロリーが低いと思っていて、手書きでわざわざ書いてくれて切手を貼って事務所に届けてくれた手紙とかは、カロリーが高いと思うから凄く向き合います。わざわざ私に会いに来て「ずっとこれを言いたかった」と伝えてくれた人の言葉(意見)は、良いものでも悪いものでも“なるほど”と思うようにしています。どれだけカロリーを使ってくれたかを図るかも。ポッと言った言葉なのか、ちゃんと噛み砕いて出た言葉なのか、そこを見るかな。
―― 言葉の温もりというか。
小野 そうですね、伝えてくれる言葉の温もり、温度を大事にしています。
熊坂出監督チームとの撮影は、愛が溢れていて素晴らしかったと語った小野花梨さんと見上愛さん。皆で一緒に考え一緒に作り上げた中で、普段ドキュメンタリーを撮られる撮影監督の南幸男さんの撮影方法も“リアリズム”を大切にする演技において刺激になったそうです。特に渋谷のスクランブル交差点のシーンでは、この映画のテーマである「リアル×フィクション」の融合をカメラが表現する瞬間として、ダイレクトなまでに二人の溢れる感情が観客に届くのだから。
文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
社会からスルーされ続けた「ゴッホ」に自らを重ね、社会に反抗する17歳の花田花梨。妻を失った父と歳の離れた妹と暮らし、半ば引きこもりの日々を過ごしていたが、父との言い争いをきっかけに、親友・風子の家へ転がり込む。ある日、電車内で病人に席を譲ったときの得も言われぬ感覚が、花梨にひらめきをもたらす。“現実×フィクション=世直し”。風子の協力を得た花梨は〈プリテンダーズ〉を結成。武器は、アイデアとSNSのみ。満員電車での諍いを喜劇に変えたり、ゾンビを街に出現させたり、次々と型破りなドッキリを仕掛け、フィクションの力で世界を変えようと突き進むふたり。プリテンダーズは協力者を増やし、RTされ、RTされ、ついにバズる!しかし、ふたりを待っていたのは、“社会”からのしっぺ返しだった ! ?
監督・脚本・編集:熊坂出
出演:小野花梨、見上愛、古舘寛治、奥野瑛太、吉村界人、柳ゆり菜、佐藤玲、加藤諒、浅香航大、村上虹郎、津田寛治、渡辺哲、銀粉蝶 他
配給・宣伝:gaie
©︎2021「プリテンダーズ」製作委員会
全国順次公開中
公式サイト:pretenders-film.jp