Sep 04, 2021 interview

主演 リリー・フランキー & 齊藤工プロデューサーが語る、映画『その日、カレーライスができるまで』制作秘話

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名優・リリー・フランキーの一人芝居、菅田将暉主演の新作『CUBE』も公開が控える清水康彦監督、ドラマ「半沢直樹」シリーズの金沢知樹による原案・脚本、そして俳優であり、監督の顔も持つ齊藤工が企画、プロデュースという夢の顔合わせが実現した『その日、カレーライスができるまで』。家庭の味の代表格であるカレーライスを誰かの為に作る一人の男がラジオを通して人と繋がり、過去へ思いを馳せ、未来で奇跡を起こす愛の物語が9月3日(金)から全国順次公開となります。まさに映画の可能性と映画館で上映する意味に気付かされ、人と人との繋がりを体感する工夫が随所に散りばめられたチャレンジングな映画体験。この映画をどんな思いで生み出したのか?そして日本映画界の未来をどう考えているのか?主演のリリー・フランキーさんと齊藤工プロデューサーに語らってもらいます。

――今回のリリーさんの役は、これまでの役とはまた違うアプローチだったように思います。

リリー 実像で出て来るのは僕だけなので難しかったです。演劇の一人舞台と違って(神野)三鈴さんなどが声で出演をされているので、実質ご覧になっている方は一人舞台とは思わないで観られると思います。ここが映像の不思議というか、最後まで僕が一人出演という印象を誰も持つことがないですよね。例えば息子の写真とは対話をしているし、共演している感じもあるので、演じていても一人だと思って演じていませんでした。

――ワンシチュエーションでリリーさんお一人出演、それが全く飽きない。一人芝居という形で映画化しようと思った理由を教えて下さい。

齊藤 リリーさんの演技は、前の時間というか映っていない時間が見えるというか、この人物を掴みたいのだけれどどうしても掴めない印象があって「リリーさんの演技をじっくりと観たい」という想いがありました。この想いは僕の声というよりは全国、全世界の映画ファンの想いではないかと思います。

リリー 工君みたいな掴みどころのない人に言われても…(笑)工君は普段からヘミングウェイ(主演ドラマ「漂着者」にひっかけ)状態ですからね。

齊藤 コロナ禍の中、ステイホームで僕も一人きりで自宅に居て外界との繋がりは、この作品では【ラジオ】ですが、会ったこともないラジオパーソナリティーが凄い近い距離に居てくれる。そんな距離感にこの自粛期間中、かなり救われたと思っていました。多分、コロナ禍前には生まれなかった作品です。出来上がった作品を観て、より強く思いましたし、リリーさんじゃなきゃ成立しなかったと思っています。

――この映画を観た時、停電により家の電球や月夜の光や懐中電灯が効果的に使われ、雷の音や雨の音、ラジオパーソナリティーの声など音が持つ力を実感しました。特に、リリー・フランキーさんの声は丹田に響くというか。

齊藤 エロいですよね(笑)

リリー この映画は、音が大切な映画なので、本当に劇場でご覧頂きたい。ちょっとした水滴やカレーが出来る音だったり、僕一人しかそこに居ないので音のお芝居があるんです。僕の持っている携帯や色々なものを見て「これ、時代物ですか」と言うんですけど、それは小道具が見せていることではなく、ラジオからパーソナリティーの(吉田)照美さんが語り出すと時代がなくなるんです。昭和でも、平成でも、令和でもない、照美さんが作る舞台装置があるんです。それに(神野)三鈴さんは『blank13』(公開 : 2018年)の時から泣かせる僕の女房ですからね(笑)色々な人の声や音が凄く重要なので、なるべく良い音響の状態でご覧頂きたいです。同時上映作である女優の伊藤沙莉とお笑いコンビ・ラバーガールの大水洋介がダブル主演した短編映画 『HOME FIGHT』も見ごたえある作品になっています。

――この映画を観ながら「メジャーで映画を作る意味、インディーズで映画を作る意味」を考えてしまいました。「インディーズの方がチャレンジングで面白いことが出来る」とさえ思いました。

リリー この映画を観た若者たちが、自分の携帯を使って「俺でも映画が撮れる」と思って欲しい。だって一つの部屋から一歩も出ないし、オッサン一人で何とかなるんだから。どんなオジサンでも子供でも映画は撮れる、むしろ画質はiPhoneの方がいいかもしれないよね(笑)そんな風に「何かを作ってみたい」と思わせることも映画の一つの役割だと思っています。

齊藤 この作品に関しては「速度」ですね。作られてから公開まで動けるという速度感がサブスクリプションを含めて回線がいい意味で一緒になったと思うんです。日本のどんなコンテンツも世界最強のコンテンツと同じフィールドにいる、それを選ぶ、選ばないは別にしてですが。僕自身もそもそも製作段階では映画企画として考えていなかったんです。ただ「今、映画館でどんな作品がmade in Japanで作られるべきなのか」をフィルムメーカーさんや入江悠監督(『シュシュシュの娘』)等も考えられていて、映画に対して色々な想いを持っていらっしゃると思うんです。僕は色々な事情があり撮影に立ち会うことが出来なかったのですが、この作品に関して言うと現場は大変だったと思います。

リリー 二日半で撮影ですからね。

齊藤 最初は戯曲があって「清水康彦監督作、主演にリリーさんだったら最高だよね」という軽やかな描き方をしていたものが、どんどん具体的になって来たという流れの中で劇場さんも大作はさておき、邦画のソフトを必要としているミニシアターさんの現状があって、ミニシアターパーク(俳優が中心となってミニシアターを支援するプラットフォーム)をやってきたことも含めて、そもそもコロナ禍前からミニシアターにお客さんが来ないという現状があったわけです。

そして去年コロナ禍になり「皆、大変だ」というよりは、ミニシアターの運営は元々、大変だった流れは否めないと思うんです。コロナ禍で劇場が休館になったり、いまだに客席の間を空けないといけない中で劇場を維持する為に「来年になったら、返済出来るかな。戻るよね」という願望で各劇場が、コロナ禍を乗り切る為に借り入れ(借金)をしたんです。けれど、いざ一年経ってみたら更にそれが伸びていて、しかも返済があるというのが今現在のミニシアターの現状です。

来年、再来年、今ある既存のミニシアターがどうなっているのか、より厳しい状況になってしまう時に、僕らが出来ることは劇場を稼働するソフトを提供することなのではと考えました。劇場目線から見た時にそれが唯一、僕らに出来ることだと思い、リモートを含めた舞台挨拶なども含めて劇場のセカンドランを盛り上げるような何かをしたいと今は思っています。

リリー 今は家族経営の小さな劇場が多いですからね。色々な映画館の使い方を皆さん考えていますが、考えたところで「外に出かけてはいけない」と言われちゃうとどうしようもないよね。